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アマゾン「お坊さん便」、反発する仏教会に想定外の批判 [朝日新聞]

2016/08/12 23:00  Category:引越

2016年8月11日04時04分
 アマゾンでクリック、カートに入れて決済すれば、やがてお坊さんが自宅にやってくる。僧侶手配サービス「お坊さん便」は、そのユニークなネーミングもあって大きな反響を呼びました。仏教界が販売の中止を求めても商品化が止まらない背景には、頼む側、頼まれる側双方に事情があるようです。
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朝日新聞
アマゾン「お坊さん便」、反発する仏教会に想定外の批判
佐藤秀男 2016年8月11日04時04分

 アマゾンでクリック、カートに入れて決済すれば、やがてお坊さんが自宅にやってくる。僧侶手配サービス「お坊さん便」は、そのユニークなネーミングもあって大きな反響を呼びました。仏教界が販売の中止を求めても商品化が止まらない背景には、頼む側、頼まれる側双方に事情があるようです。

 受話器から、ため息交じりの声が聞こえた。

 「試しにクリックしたら、在庫切れって表示されたんです。僧侶がモノ扱い、在庫扱いですよ」

 昨年12月、ネット通販大手アマゾンに法事や法要に僧侶を手配するサービス「お坊さん便」が出品され、ネット上やテレビで話題になった。旧知の僧侶に電話で感想を求めると、こんな答えが返ってきた。

 「宗教の商品化」に、仏教の主な宗派でつくる全日本仏教会(全仏〈ぜんぶつ〉)は黙っていなかった。昨年暮れ、当時の斎藤明聖(あきさと)理事長名で「宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ない」との談話を発表。今年3月にはお坊さん便の販売中止をアマゾンに申し入れた。

 お坊さん便は葬儀関連会社の「みんれび」(東京)が3年前に始めた。定額で僧侶を法事や法要に仲介する。基本価格は税込み3万5千円。さらに多く払えば戒名も授けてくれる。みんれびへの手数料を除いた分が僧侶に「お布施」として入る。アマゾンに払う手数料はみんれびが負担する。

 「ここまで反響があるとは思わなかった」。みんれび副社長の秋田将志(30)は言う。みんれびは、岐阜県の高校で同級生だった社長の芦沢雅治(30)と秋田が7年前、仲間と3人で始めたベンチャー企業だ。

 当初、葬儀社を仲介・紹介するサイトの運営に力を入れた。ネットがまだ業界に浸透しておらず、成長が見込める市場の割に競合が少なかったからだ。飛び込みで近隣の葬儀社に営業し、紹介できる業者を増やした。やがて葬儀社だけでなく僧侶の仲介ニーズがあると気づく。インパクトのある商品名は100以上の候補から決めた。

 一方、全仏にとって想定外だったのは、お坊さん便に対する批判が、「なぜお布施と称して多額の金銭を要求するのか」「対案も出さずに批判するのか」などと、ブーメランのように自らへの批判となって返ってきたことだ。電話やメールで寄せられた意見で、全仏を支持する声はわずかだった。

 思わぬ「劣勢」に全仏は今年1月、学識経験者と各宗派の代表ら十数人でつくる「協議会」の設置を決めた。商品化が進むのは仏教界にも問題があるとして、菩提(ぼだい)寺を持たない人に近隣の寺を紹介する取り組みや、過疎地の僧侶への対応策などを話し合う予定だった。

 だがメンバーの人選などに手間取り、初会合は9月にずれ込む見通し。アマゾンからも具体的な返答はなく、現時点では成果がないまま批判だけ浴びた格好だ。6月に就任した全仏の新理事長、石上智康(いわがみちこう、79)は「決定打はなかなかない。このような商品が成立しない土壌をつくるために我々も襟を正し、愚直に信頼を回復していくしかない」と話す。

 7月半ば、大阪府内に住む70代の女性は、80代の夫の四十九日法要にお坊さん便を頼んだ。息子がアマゾンで注文してくれた。夫は入院生活が長く、最近は近所との交流もなかった。お金もかかるので家族葬で済ませたが、供養はきちんとしたい。

 この日はみんれびに登録されているなかから、女性宅に比較的近い京都の40代の僧侶が車で約1時間かけてやってきた。事前に電話で夫の人となりを伝えたが、もちろん会うのは初めて。僧侶は50分近くお経を読み上げると、授けた戒名の由来を説明し、1時間半ほどで引きあげた。女性は「安くすんでよかった。坊さんの業界が(お坊さん便に)怒ってるらしいけど、そんなん自由でええと思う」。

 この僧侶はふだん別の仕事を持つ。檀家(だんか)は30軒ほどで、寺の収入だけでは食べていけない。約1年前からみんれびのお坊さん便に登録し、20件以上の葬儀や法事を担った。名古屋まで出向いたこともある。僧侶側にとって、アマゾンの場合は決済が終わっているのもありがたいと言う。「その場でお金をいただくのは何となく後ろめたい。本来のお布施とは違うかもしれないが、お坊さん便は宗教的サービスを提供していると考えています」

 みんれびによると、アマゾンの出品前に全国で約400人いた登録僧侶が、いま100人近く増えた。=敬称略(佐藤秀男)

■「お釈迦様に申し訳ない」全仏理事長

 「お坊さん便」に反対する、全日本仏教会(全仏)の石上智康理事長に、その理由についてたずねました。

 ――なぜ「お坊さん便」はいけないのですか。

 「お布施を僧侶の宗教行為への対価ととらえているからです。布施とは仏教の実践、修行の一つで、施し、人に自分のものを与えるということ。物質的なものでも、精神的なものでもいい。そのとき大事なのは、心のあり方。人に何かをしてあげている、といったこだわりがあってはならず、なににもとらわれない、清らかな気持ちでするものです。額を決めて商品として販売することは、お布施本来の考えからは到底ありえない」

 ――その精神を理解している人が、今どれだけいるでしょうか。

 「日本では、主に僧侶にお参りをしてもらった場合に施す財をお布施と言っています。大事なのは額の多寡ではない。我々はたくさんいただく場合も、そうでない場合も、ありがたくいただいている。ただ、僧侶の一部に法外なお布施を要求するなど布施の精神をないがしろにする行為があるのも事実です。その点は厳しく反省しないといけない」

 ――なぜお坊さん便のような商品が生まれたのでしょう。

 「過疎化の影響などから、経済的に困窮する寺や僧侶がいる。一方で利用者の側も、お布施をいくら渡したらいいか悩んだり、寺と付き合って寄付や行事への参加を求められりするのは嫌だけれど、親や兄弟が亡くなったら法事ぐらいしてあげたいという宗教的な感情はある。双方の事情が背景にあると思います」

 ――では、お互いにとっていい話なのでは。

 「安易にもうけに走るのは拝金主義です。商売になるならなんでも商品にしてもうけてしまおうという時代相が、今の日本にある。極めて不幸な事態です。宗教が軽視され、お布施の精神が忘れられている。ご先祖様やお釈迦様に申し訳ない」

 ――アマゾンにお坊さん便の販売中止を要請しました。アマゾンは何と言ってきましたか。

 「アマゾンジャパンからは回答はあったが、中止要請に直接答えておらず、平行線のままです。米国のアマゾン本社にも文書を送ったが返事はなく、回答を待っています」

 ――中止を要請したのは3月です。いまだに回答がないということは、答える気がないのでは。

 「あちらの事情はよくわからないが、回答がないのは大変遺憾です。信仰を重んじる欧米の考えからすると、お坊さん便のような商品はありえないはずだと思います」

 ――商品を出品しているのは「みんれび」という会社です。アマゾンとでなく、みんれびと話し合うべきでは。

 「それは今後の検討課題ですね」

 ――全仏へも批判が相次ぎ、「協議会」の設置を決めましたね。

 「学識経験者や外部の参考人に加わってもらい、今回のアマゾン問題に対するご意見、我々に対する提言や叱正(しっせい)をいただき、全日本仏教会として今後、具体的に何ができるか話し合う予定です」

 ――協議会の設置を決めたのは1月ですが、まだ1度も会合は開かれていません。スピード感を欠きませんか。

 「私が理事長に就任したのは6月ですが、ご批判は厳粛に受け止めます。ただ、我々は各宗派や都道府県の仏教会などからなる連合体で、意志決定にある程度時間はかかります」

 ――人口減少の時代です。これからの寺をどうしていきますか。

 「宗派のなかには、過疎地の寺への支援に取り組む動きがすでにあります。協議会でもこうした情報を共有し、対応策を検討すると思います。一方で、過疎は我々の能力を超えた社会的な問題です。見通しが立たなければ、寺の統廃合や宗教法人の解散もある程度やむをえない。エブリシング・イズ・チェンジング。我々は仏教でそう教えられている。時代の変化に合わせて対応していく」

 ――諸行無常ですね。だとしたら、お布施の考えも時代とともに変わっていいのでは。

 「いや、そこは譲れません。布施の精神は仏教の基本、根幹だからです」

■「ネーミングにはこだわった」みんれび副社長

 「お坊さん便」に対して、仏教界が反発している。サービスをはじめた「みんれび」の秋田将志副社長に、狙いや反響についてききました。

 ――「お坊さん便」に大きな反響があったのはなぜでしょう。

 「まず背景に、寺の檀家になる方が少なくなったことがあります。そういう方でも、葬儀や法事にはお坊さんを呼びたい。でも日ごろ接点がないので、どこで頼めばいいかわからない。ネットで探せて、しかも後々付き合う負担がない方がいい。そんなニーズにマッチしたのかなと」

 ――登録している僧侶の数は?

 「現在は約500人です。3年前にサービスを始めてアマゾンに出品するまでの2年半で400人でしたから、順調に増えています」

 ――登録しているのはどんなお坊さんですか。

 「檀家の数が減っている、またこれから減る前に早めに手を打っておきたいという方が多い。親子で住職と副住職をしているようなケースで檀家が少ないと、時間的に余裕がある一方、経済的にはかなり厳しいようです」

 ――どうしてお坊さん便という名前に?

 「ネーミングにはかなりこだわりました。センシティブな業界なので、配慮はしつつ、でも堅い名前だと覚えてもらえない。社外からも案を出してもらって、100以上ある候補の中から決めました。アマゾンさんが宅配に力を入れている時期で、ネット上でもお坊さんが段ボールで送られてくるのか、といった冷やかし的な反応も含め、かなりのインパクトがあったと思います」

 ――仏教会から反発があると事前に予想していましたか。

 「何かしら反応はあるだろうと。ですので、事前に顧問弁護士や税理士に相談して、法的な問題や税務上の問題がないか確認しました。もっと怒られるかなと思ってましたが、個々の僧侶の方からの批判はほとんどなく、応援してるからと個人的に言ってくださる方もいます」

 ――定額化はお布施の精神に反するという指摘にどう答えますか。

 「我々のサービスは基本的にお寺と付き合いがない方向けです。檀家さんに対してはいままで通りの考えでいいと思いますが、不明朗でわかりにくいという声に応えるサービスなので、価格を明示できなければ、我々がやる意味がなくなってしまう。宗教離れが言われるなかでもっとフレキシブルな、過去にとらわれないアプローチの仕方があってもいいのでは」

 ――ネットでクリック、決済はカードで、というのは違和感があります。

 「そこは考え方の問題で、お金のやりとりをスムーズにしたいという方も多いです。当日どのタイミングでお布施を渡せばいいのか悩まなくて済むし、お坊さんも本来のお勤めに集中できる。選択肢が広がるのは良いことだと思います」

 ――みんれびへの手数料が高く、お布施のピンハネではないかという指摘もありますが。

 「手数料の内訳は公開していませんが、お客様が申し込みやすい価格設定になっていると思います」

 ――サービスの改善点はありますか。

 「今の仕組みだと事前に電話やメールでやりとりはしますが、利用者はどういうお坊さんが来るか当日までわからないし、選べません。年配の方が安心できる、法話がうまい人がいい、お経の声は重厚感があったほうが、などと要望も様々ですので、プロフィルの詳細などを公開して、頼みたい僧侶に頼める仕組みにしていきたい。登録していることをオープンにしていない方が多いので、実現のハードルは高いですが」

 ――アマゾンへの出品を取り下げる考えはないのですか。

 「利用者に支持されている以上、こちらから取り下げることはありません」

 ――全仏と話し合う余地は?

 「もともと敵対するつもりでやっていませんし、経済的に困っている僧侶の方のお手伝いをさせていただいているつもりです。こちらの考えを聞いて下さるなら、断る理由はありません」(聞き手・佐藤秀男)
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