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山口弁護士8億円訴訟 地裁判決文

2010/02/19 22:41  Category:裁判関連

山口弁護士8億円訴訟
【幸福の科学敗訴。最高裁まで上告したが棄却されて敗訴確定】

最高裁 報道記事
幸福の科学 敗訴確定 名誉棄損反訴訴訟 『高額請求は威嚇』支持 最高裁上告棄却
2002.11.09 中日新聞(朝刊)
宗教法人「幸福の科学」側から計八億円を求める訴訟を起こされて弁護士業務を妨害されたとして、山口広弁護士(第二東京弁護士会)が逆に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第二小法廷(福田博裁判長)は八日、教団側に百万円の支払いを命じた二審東京高裁判決を不服とする教団側の上告を棄却する決定をした。「幸福の科学」の敗訴が確定した。
一、二審判決によると、山口弁護士は一九九六年十二月、強制的に献金させられたという元信者の代理人として記者会見を開き、教団などを提訴。教団側は翌月「会見で名誉を傷つけられた」として教団が七億円、職員二人が一億円の支払いを求めて訴え、山口弁護士が反訴した。
一審東京地裁は、教団側に百万円の支払いを命じ、東京高裁も「提訴の主な目的は弁護士への威嚇で、裁判制度の趣旨に照らし不当性は明らか」とこれを支持した。


□以下の判決文は、廃止されたサイトからの転載です。当方で文字に起しており、正確さを保証するものではありません(元のサイトのアドレスが分からなくなりました)。□空行は当サイトによるもの。おおよその区切りをつけただけです。



山口弁護士8億円訴訟地裁判決
 
【文献番号】   28070655

損害賠償本訴請求事件
東京地裁平成9年(ワ)第84号
損害賠償反訴請求事件
東京地裁平成9年(ワ)第15567号
平成13年6月29日民事第15部判決
口頭弁論終結日 平成13年2月22日


       判   決

本訴原告(反訴被告) 宗教法人《甲1》
同代表者代表役員 《甲2》
本訴原告 《甲3》
本訴原告 《甲4》
本訴原告ら訴訟代理人弁護士 小田木毅
同 佐藤悠人
同 松井妙子
同 野間自子
本訴被告 《乙1》
同訴訟代理人弁護士 《乙2》
同 渡辺博
同 杉山典彦
同 朝倉淳也
本訴被告(反訴原告) 《乙2》
同訴訟代理人弁護士 土屋公献 外320名


       主   文

1 本訴原告らの本訴請求をいずれも棄却する。
2 本訴原告(反訴被告)宗教法人《甲1》は,本訴被告(反訴原告)《乙2》に対し,100万円及びこれに対する平成9年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 本訴被告(反訴原告)《乙2》のその余の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,本訴原告らの負担とする。
5 この判決は,第2,第4項に限り,仮に執行することができる。


         事実及び理由

第1 請求
1 本訴
(1)本訴被告らは,本訴原告(反訴被告)宗教法人《甲1》に対し,連帯して7億円及びこれに対する平成9年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)本訴被告らは,本訴原告《甲3》に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成9年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)本訴被告らは,本訴原告《甲4》に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成9年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)本訴被告(反訴原告)《乙2》は,本訴原告らに対し,別紙2記載の謝罪文を,日本弁護士連合会発行の「日弁連新聞」紙上に,別紙3の条件にて掲載せよ。
(5)本訴被告(反訴原告)《乙2》は,本訴原告らに対し,別紙4記載の謝罪文を,日本弁護士連合会発行の「日弁連消費者問題ニュース」に,別紙5の条件にて掲載せよ。
2 反訴
 本訴原告(反訴被告)宗教法人《甲1》は,本訴被告(反訴原告)《乙2》に対し,800万円及びこれに対する平成9年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,本訴原告ら(以下「原告ら」という。)が,本訴被告《乙1》(以下「被告《乙1》」という。)が,本訴被告(反訴原告)《乙2》(以下「被告《乙2》」という。)を訴訟代理人として,原告らを被告とする損害賠償請求訴訟を提起したこと,これについて提訴記者会見を開くとともに,その後被告《乙2》が日弁連消費者セミナーにおいて本訴原告(反訴被告)宗教法人《甲1》(以下「原告《甲1》」という。)に関する発言をしたことによって名誉を毀損された等と主張して,本訴被告ら(以下「被告ら」という。)に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,被告《乙2》に対し,謝罪文掲載を請求する事案であり(本訴関係),これに対して,被告《乙2》が,原告《甲1》の不当な本件の本訴提起により損害を被ったと主張して,原告《甲1》に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である(反訴関係)。1 前提事実(証拠を挙げない事実は争いがない)

(1)当事者
ア 原告ら
 原告《甲1》は,平成3年3月,宗教法人法に基づく設立登記によって,《甲2》(以下「《甲2》」という。)を代表役員として成立した宗教団体である。
 原告《甲3》(以下「原告《甲3》」という。)及び同《甲4》(以下「原告《甲4》」という。)は,原告《甲1》の信者であるとともにその職員でもある者である。

イ 被告ら
 被告《乙1》は,原告《甲1》の元信者,元職員であり,平成2年12月15日以降,山梨県東八代郡所在の宗教法人《乙3》(以下「《乙3》」という。)の宮司及び代表役員を務めている者である。
 被告《乙2》は,第二東京弁護士会に所属する弁護士であり,全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長を務めている者である。

(2)献金訴訟の提起
 被告《乙1》は,平成8年12月25日,原告《甲3》及び同《甲4》から原告《甲1》に対する2億円余に上る献金を脅迫により強制されたと主張して,被告《乙2》を訴訟代理人として,原告らを被告とする損害賠償請求訴訟(以下「献金訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起した。

(3)提訴記者会見
ア 被告《乙2》は,事前に報道機関に連絡した上,平成8年12月25日,東京地方裁判所内の司法記者クラブにおいて,被告《乙1》の代理人として,献金訴訟の訴状の写し及び「《甲1》らに対する損害賠償の訴え」と題する書面(以下これらの書面を併せて「本件記者会見における配布資料」という。)を司法記者クラブの記者に配布して提訴記者会見(以下「本件記者会見」という。)を行った。被告《乙2》は,その席上,「尾行やいたずら電話など組織的な嫌がらせも続いており許しがたい。」という被告《乙1》作成にかかる声明文を読み上げた。

イ 献金訴訟の訴状には,以下の内容の記載がある(甲1)。
(ア)1000万円領得部分
 平成2年12月中ころ,「原告は被告《甲4》から地区事務所に呼び出された。そこで,被告《甲4》は被告《甲3》と共謀のうえ,原告に対して『山梨地区を支部にするのでその事務所賃借料として1000万円程度が必要である。君に用立てて欲しい。』と指示した…(中略)…被告《甲4》は2人きりの地区事務所内で,約1時間にわたり,原告に対し次のとおり執拗に迫った。被告《甲4》は…(中略)…『お金を出さないと,亡くなったお父さんは天国に帰れない。お金を出せば,幽界に彷徨っているお父さんも徳を積むことができて,より高い世界に帰ることができる。お父さんもそうすることを幽界で望んでいる。』『お金に執着していると,お前もお前のお父さんも地獄に堕ちるがそれでもいいのか。今世に執着を残すと,次の転生ではその反動でみじめな一生を送ることになる。』等の具体的な言動を用いて,自己をブッダの代理と称し,霊界の父を代弁したり,霊能力を具備しているかのごとく振る舞ったので,原告は,もしこの話を断ると,自分や家族に対して恐ろしいことが起きるという恐怖におののくに至り,最終的には1000万円を交付することを承諾せざるを得なくなり,もって翌日,地区事務所において被告《甲4》に対してこれを交付した。」との記載。

(イ)2400万円領得部分
 「1991年(平成3年)2月以降,被告《甲4》は被告《甲3》と共謀のうえ,原告から金員を領得することを目的として,原告に恐怖心を植えつけて被告らの指示のままに行為させるべく,朝に晩に左記(原文は縦書き)のような説法を加えた。(一)原告は『光の天使』である被告《甲4》を支える義務がある。原告は『大黒天』として,法を広げる使命をもった天使である被告《甲4》を財産面で支え続ける義務があり,この義務を果たさない場合には原告もその親族も地獄に堕ちるしかなくなる。(二)原告が地区長になれたのは,被告《甲4》のおかげだ。だから,被告《甲4》の言うことには絶対に服従しなければならず,被告《甲4》に逆らうことは被告《甲4》を任命したブッダに逆らう事となり,和合僧破壊の罪で阿鼻叫喚地獄に堕ちることとなる。被告《甲4》の言うことには絶対に服従しなければならない。(三)自分に逆らった奴は,除名してやる。これは,原告にとってはブッダの作ったとされる『《甲1》』を除名され,即ち阿鼻叫喚地獄に堕ちることに直結するものであった。(四)現世の財産は単にブッダからの預かりものに過ぎず,それを私する者は,執着心が強い者として,地獄に堕ち,次の転生ではその反動で極貧にしか生まれることはできない…(中略)…1991年(平成3年)2月末頃,被告《甲4》は原告に対し,山梨支部の事務所において『活動資金がないので400万円を出してほしい。』と指示した。原告は…(中略)…被告《甲4》の指示に逆らえない精神状態に追い込まれていたため,これに逆らえず,その翌日に金400万円を《甲4》に交付させられた…(中略)…原告は前記精神状態に追い込まれた畏怖心から,被告らに対して…(中略)…冊子及び書籍等の仕入代金名下に同年3月末に金150万円,同年4月末に金300万円,同年5月末に金350万円,同年6月末に金200万円,同年7月11日に金1000万円の合計金2000万円を交付させられた。」との記載。

(ウ)2億円領得部分
 平成3年「5月20日頃,被告《甲4》は支部事務所で原告に対して『君には,土地を売ったお金が10億円位あっただろう。それを教団に対する貸付金にしてみないか。』と切り出してきた…(中略)…『とりあえず,3億円を貸付金にしろ。そうすればお前の死んだ父親もまた上の世界に帰れるのだから,いい親孝行をする事になるのだ。なんだったら年3パーセントの利息を付けてやってもいいぞ。』等と,欺罔,脅迫を繰り返した。原告は,ここで断るとまた和合僧破壊の罪に陥るのではないかと畏怖し,なによりも応諾すれば被告《甲4》からの執拗な強要から解放されると考えて,止むなくこれに応じることとした。原告は,同年5月23日に,3億円を《甲1》の銀行口座に振り込んだ。」
「1991年(平成3年)6月末ころ,再び被告《甲4》は,原告を支部事務所に呼出して,いきなり『お前は,今,教団がどういう状況か知っているのか。今,教団は一番大事な時なんだ。支部も増やさなくてはならないし,ブッダの法が広がるか,広がらないかの瀬戸際なんだ。だからお前だけが,いい生活をするんじゃねえぞ。』…(中略)…『今しかブッダの為に金を使う時はないんだ。お前が金を出すことによって,山梨支部は全国の牽引車になれるんだ。そうすれば,全国から布施が集まるんだ。そうすることがお前の役目なのだ。お前の持っている金は全部ブッダのものなんだぞ。お前の父もあの世から布施をしろと言っているぞ。』…(中略)…『迷っている場合じゃあないんだよ。今しかないんだよ。今,金を出さなかったら,来世は貧乏人にしか生まれられなくなるからな。これが最後のチャンスと思え。こうやって,布施の機会を提供してやっているのだから,言うことを聞け。お前が教団に貸し付けている3億円のうち,2億円を布施しろ。分かっているだろうな。逆らったら,和合僧破壊の罪で除名してやるぞ。和合僧破壊は阿鼻叫喚地獄行きだからな。今しか,布施する時はないんだぞ。』と声を荒げて原告に対して脅迫を繰り返した。原告は,このように言われて,恐怖心と不安で頭が一杯になってしまい,止むなく,3億円の貸付金のうち2億円を布施することを承諾させられ,もって《甲1》に2億円を領得された。」との記載。

ウ 本件記者会見における配布資料のうち「《甲1》らに対する損害賠償の訴え」と題する書面には,「《甲1》山梨地区の責任者であった幹部の被告《甲4》は,A氏が資産家であることに目を付け,《甲1》の最高幹部の一人である被告《甲3》と共謀し,1990年(平成2年)12月から1993年(平成5年)8月にかけて,『あなたの財産は仏が,救世運動のためにあなたに預けたものであり,本来あなたのものではない。』『お金に執着するやつは地獄行きだ。』『私は仏陀の代理だから,あなたは私の命令に絶対服従しなければならない。逆らえば,和合僧破壊の罪で阿鼻叫喚地獄に落ちる。』などと繰り返し脅迫し,畏怖した原告A氏から総額約3億円を献金名下に《甲1》に交付させて奪い取りました。」との記載がある(甲157)。

エ 献金訴訟提起に関する報道(以下「本件各報道」という。)
「朝日新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「毎日新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「産経新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「東京新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「報知新聞」平成8年12月26日付け,「スポーツニッポン」平成8年12月26日付け,「日刊スポーツ」平成8年12月26日付け,「サンケイスポーツ」平成8年12月26日付け,「赤旗」平成8年12月26日付け,「共同通信ニュース速報」平成8年12月25日16時39分,「時事通信ニュース速報」平成8年12月25日18時17分,「山梨日日新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「下野新聞」平成8年12月26日付け朝刊,「日本テレビ」の各報道機関は,献金訴訟提起について,「《甲1》の幹部らが,元信者に対して,『お金に執着していると地獄に落ちる』『命令に服従しなければ地獄に落ちる』等繰り返し脅迫して多額の献金を強要した。」等の内容を報道した。このうち,「スポーツニッポン」,「日刊スポーツ」,「サンケイスポーツ」,「共同通信ニュース速報」を除く各報道機関は,上記内容に加えて「《甲1》広報室では『虚構と悪意に満ちた訴訟で,真相は全て法廷で明らかにする』としている」という原告《甲1》側の言い分を併記して報道した。また,「日刊ゲンダイ」平成8年12月27日号は,上記内容に加えて「原告は代理人を通じ『(《甲1》の関係者によって)尾行やいたずら電話など組織的な嫌がらせも続いており許しがたい』とコメントした。」等と報道した(甲23ないし37)。

(4)本訴提起
 原告らは,平成9年1月7日,献金訴訟提起及び本件記者会見により名誉を毀損された等と主張して,被告らに対し,合計8億円(原告《甲1》は7億円,原告《甲3》及び同《甲4》は各5000万円)の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(本訴)。

(5)資料集の送付
ア 被告《乙2》は,平成9年2月,全国の約400名の弁護士に対し,本件記者会見における配布資料,本訴の訴状写し,献金訴訟及び本訴提起の事実を伝える新聞記事,原告《甲1》が作成した「損害賠償請求提訴の件」と題する書面等をまとめた「資料集」と題する冊子(以下,単に「資料集」という。)を送付して,本件訴訟における被告《乙2》の訴訟代理人となることを求めた。なお,資料集中の被告《乙1》の住所氏名はすべて黒く塗りつぶされていた(甲157)。

イ 上記「損害賠償請求提訴の件」と題する書面には,「本訴提訴に踏み切ったのは主に下記の理由によるものです。(1)法人名義の,すでに返済済の資金2億円を個人の献金と偽り,その返還を求めるなど先方の訴状には夥しい虚偽が羅列されており,あまりにも事実に反した杜撰で不当な訴えであること。(2)「幹部による献金の強要」という『虚構』を捏造し,被害者を装った記者会見を開くなど卑怯な手段を用いて,当会の信用失墜を画策したと思われること。(3)この虚構と悪意に満ちた訴訟提起とそれに伴う記者会見の結果,『虚偽の風説』は全国津々浦々に広まり,教団と職員2名はその名誉と信用を著しく毀損されたこと…(中略)…被告に《乙2》弁護士を加えた理由は主に下記の通りです。(1)「《甲1》」とは無縁の教義を持ち出して訴状を構成し,霊感商法訴訟さながらの記者会見を行った《乙2》弁護士は,今回の「捏造訴訟」の中心的存在であること,(2)事実に反する杜撰な訴えの内容を糊塗し,「《甲1》」に対する誤解を世間に植えつけるための記者会見を開くなど,自らの社会的影響力を悪用したこと,(3)《乙2》弁護士とは,(黒塗り)氏の退職時の不満に耳を傾けるかたちで,一年近くも誠意ある対話を重ねてきたが,この間資金返却の要請は一切なされておらず,今般突如として提訴,記者会見に及んだことは,明らかに常軌を逸しており,弁護士倫理に反した遺憾な行為と言わざるをえないこと…(中略)…《甲1》の教義では,布施は徳を積むためになすものであり,布施を免罪符的に解釈した『布施をしないと地獄に堕ちる』という教義は一切ありません。また,金銭や富それ自体は価値中立的なものであり,使う人の心次第で善にも悪にもなりうることを教えていますから,布施を贖罪説的に解釈して『お金を出せば,罪が消える』とか『お金を持っていると地獄に堕ちる』という教義も一切ありません。布施はそれ自体をなすことで,本人の心が安らぎ,人格を磨くということで完結しており,対価関係の契約ではありません。ゴルフの会員権ではないのですから,『信者でなくなったから金を返せ』という訴訟の成り立つ余地はありません」と記載されていた(甲157)。(6)夏期消費者セミナーの開催及び同セミナーにおける被告《乙2》の報告

ア 日本弁護士連合会消費者問題委員会主催の「1997年(第9回)夏期消費者セミナー『宗教と消費者被害を考える』」(以下「消費者セミナー」という。)が,平成9年7月25日及び26日,京都市左京区聖護院において開催され,その中で「リレートーク会員が取り組んだ宗教関連被害」(以下「リレートーク」という。)が実施された。

イ 消費者セミナー概要の送付
 消費者セミナーの開催に先立ち,日本弁護士連合会から各弁護士会会長に宛てて,平成9年5月30日付け「第9回夏期消費者セミナーのご案内とご依頼」と題する案内文書が送付された(甲159の1)。同文書に添付された「1997年(第9回)夏期消費者セミナーの概要」なる書面(以下「消費者セミナー概要」という。)には,「2日目は,リレートーク形式で,会員の扱った宗教関連の被害問題について報告してもらい,経験交流をしたいと思います。霊感商法被害弁護団 霊視被害弁護団 法の華被害弁護団 《甲1》問題弁護団 オウム真理教被害者弁護団 ヤマギシ問題弁護団 泰道被害弁護団」と記載されていた(甲159の2)。

ウ 日程表の配布
 消費者セミナーの会場で参加者に配布された「97年 第9回夏期消費者セミナー日程」(以下「日程表」という。)には,「リレートーク 会員が取り組んだ宗教関連被害」において,「泰道被害問題」「黄金神社被害問題」「神慈秀明会被害問題」「ヤマギシ問題」「法の華被害問題」「統一教会問題」「本覚寺・明覚寺問題」と並んで「《甲1》問題」と記載されていた(甲163)。

エ 被告《乙2》の報告
 被告《乙2》は,被告《乙1》の被害経過の概要及び原告《甲1》の組織経過の概要が記載された「《甲1》問題」と題するレジュメ並びに資料集を配布し,リレートークにおいて,100名以上の参加者に対し,「《甲1》問題は若干,『統一教会』その他の問題と性質的には同じような部分があると思うんです…(中略)…これが本屋さんに沢山平積みになってて,これを読んで関心を持った人が,《甲1》に連絡をし,そこからまあ,会員になっていく,というパターンです。これを極端に進めていったのが『法の華』だと思いますし,それを金儲けの手段にしたのが『法の華』なんです…(中略)…《甲2》氏の著書の内容を見てみますと,『地獄』の怖さといいますか,無間地獄,地獄にはいろんな段階があってですね,サラリーマンが陥る地獄もあったり,多彩,多種多様な地獄を《甲2》さんは見てきたらしくてですね,それを著書に具体的に書いておられるんですが,やはりその,地獄のことをですね,そんなに全国で組織的に,そういう地獄の恐怖を煽って金を集めるということをやってるわけじゃなさそうなんですが,ちょっとやはり,会員獲得あるいは資金獲得に熱心になってしまうとですね,まあこの原告が受けたような被害といいますか,問題の原因になっていってしまう」等の報告(以下「本件報告」という。)をした(甲163)。

オ 「日弁連消費者問題ニュース」における署名記事の執筆
 被告《乙2》は,「日弁連消費者問題ニュース」第60号(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会,平成9年9月10日発行。以下「日弁連ニュース」という。)の「リレートーク 会員が取り組んだ宗教関連被害」の項において,「『《甲1》』91年以降の《A》・×××××との紛争や《甲2》の著書群で知られた教団の活動にのめり込んだ資産家の男性が,会員拡大の時期に何億円もの献金や貸付けをさせられた件で,金の返還と慰謝料,弁護士費用の支払を求める裁判を起している。提訴後,逆に原告とその代理人である私は相手側から8億円の損害賠償請求訴訟を起されたため,他の先生方の協力を得ながら,反論活動を行っている」という署名記事(以下「本件署名記事」という。)を執筆した。

2 争点
(1)本件記者会見が原告らの名誉を毀損するか。
(原告らの主張)
 本件記者会見における配布資料の記載は,これを通常人が読んだ場合,原告らが組織的に脅迫欺罔する等の手段を用いて違法に多額の献金を強制したかのような印象を与えるもので,原告らの社会的評価を低下させる内容である。したがって,被告らは,本件記者会見に関するマスコミ報道等を通じて,一般読者や視聴者をして,原告《甲1》が何らかの犯罪的な献金活動を行っていると受けとめさせたことは明らかである。なお,報道そのものはマスコミによってされるものとしても,記者会見はマスコミに対する積極的情報提供行為であり,マスコミ独自の調査・判断がほとんど行われず,被告らが記者会見で提供した虚偽の情報がほぼそのまま報じられた本件の場合,被告らはマスコミ報道による原告らの名誉毀損について,情報提供者として責任を負う。
(被告らの主張)
 一般の読者や視聴者は,本件記者会見に関する報道を一方当事者の主張にすぎないものと受け止め,しかも多くの報道では原告《甲1》側が公表したコメントも併記されているから,このような場合,原告らの社会的評価は低下しない。また,司法記者クラブ加盟社は,取材もせずに被告らの言うがままをそのまま掲載することはありえないから,被告らの行為と本件各報道との間に相当因果関係はない。

(2)資料集の送付,消費者セミナーにおける各種書面の配布ないし本件報告,日弁連ニュースの本件署名記事の執筆が原告らの名誉を毀損するか。
(原告らの主張)
ア 資料集は,原告《甲4》及び同《甲3》が共謀の上刑法上の脅迫罪や恐喝罪といった犯罪行為に該当する行為を組織的に行ったと摘示するものであるから,その送付及び配布は原告らの名誉を毀損するものである。
イ 消費者セミナーの企画者は被告《乙2》であったところ,消費者セミナー概要の記載は,原告《甲1》によって違法行為が全国的に多発しているかのような印象を与える内容となっていた。したがって,消費者セミナー概要の送付は,原告らの名誉を毀損するものである。
ウ 日程表の記載は,あたかも原告《甲1》によって被害が発生しているかのような印象を与える内容となっていた。したがって,日程表の配布は,原告らの名誉を毀損するものである。
エ リレートークにおける本件報告及び日弁連ニュースの本件署名記事の執筆は,原告《甲1》が当時その活動による被害が社会問題化していた他の宗教団体と同様ないかがわしい宗教団体であるとの印象を全国の弁護士に与えたもので,原告らの名誉を毀損するものである。

(被告《乙2》の主張)
ア 資料集は原告らの主張と被告《乙1》の主張を全文掲載したものであって,公平に双方当事者の主張を盛り込んでいる。このような資料集を弁護士がみれば,双方の主張を公平な目で検討することになるのであって,資料集の記載は何ら原告らの社会的評価を低下させるものではない。したがって,資料集の送付及び配布は原告らの名誉を毀損しない。
 弁護士に対する資料集の送付は,被告《乙2》と個人的に信頼関係のある友人弁護士に依頼書として送付したものであって,個人の私信と同様の存在であるから公然性がなく,また,資料集の配布は,場所と関係者が限定されているから公然性がない。
イ 消費者セミナーのテーマは,日弁連消費者問題対策委員会の広報を担当する部会で企画されて全体委員会において討議の上決定されたものであって,消費者セミナー概要の送付は,被告《乙2》と何らかかわりのないものである。また,そもそも消費者セミナー概要の記載内容は,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
ウ 日程表の記載内容は,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
エ リレートークにおける本件報告及び日弁連ニュースの本件署名記事は,訴訟提起等の客観的事実を報告したものにすぎないから,原告らの社会的評価を低下させるものではなく,これらは原告らの名誉を毀損しない。また,そもそも,日弁連ニュースの紙面の編集は,被告《乙2》と全く関わりなく行われるものである。

(3)名誉毀損の真実性又は相当性
(被告らの主張)
ア 事実の公共性
 原告《甲1》は自称600万人の信者を抱えていると称する大宗教団体であり,《甲2》の言動及びその意を受けた幹部の言動は大きな社会的影響がある。本件訴訟は,《甲2》が説く地獄の諸相についての言説を用いて献金交付を勧誘し教団拡大を図った事実に密接に関連するから,事実の公共性が認められる。
イ 目的の公益性
 本件記者会見は,献金訴訟は社会的影響が大きい事件であり提訴に関する報道がされることが必至であったことから,提訴の趣旨を正しく伝える目的と被告《乙1》に対する嫌がらせをやめさせる目的で行われたものであるから公益目的で行ったものである。
ウ 真実性又は相当性
(ア)原告らが返済したと主張する金員は,別個の貸付金に対する返済である。被告《乙1》と原告《甲1》との間には高額の金銭が多数回にわたり授受された事実がある以上,その時期について多少のずれがあったとしてもそのことが名誉毀損に該当しないことは明らかである。
(イ)本件各献金は,被告《乙1》個人がその判断に基づいて交付した献金であり,被告《乙1》個人以外に《乙3》の関係者で原告《甲4》ら原告《甲1》関係者から献金勧誘を受けた者が存在せず,しかも《乙3》の財産といえどもそれは被告《乙1》個人の管理処分に委ねられていた土地の売却代金を,同人の判断で《乙3》名義にしていたものにすぎない。
(ウ)原告《甲1》が,《甲2》の指揮の下,組織をあげて信者拡大活動や資金集め活動を展開する渦中において,《甲2》が説く地獄の恐怖及び原告《甲4》がこれを強調することによって,被告《乙1》が強い精神的圧迫を受けて献金要求を拒否できなかったことは優に認められる。原告《甲4》は,献金の提供と地獄に落ちる等のいわゆる死後の不幸とを関連づけて,熱心に献金,貸金の提供を求めている。阿鼻叫喚地獄の教えは,被告《乙1》が参加した平成3年3月24日の《甲2》の講演で説かれている。
(エ)原告《甲1》関係者による被告《乙1》に対する嫌がらせが続いていたことは真実であり,少なくとも,被告らがそのように信じたことには相当の理由がある。

(原告らの主張)
ア 事実の公共性
 この点は明らかに争わない。
イ 公益目的
 本件記者会見を行う必要性は存在しない。
ウ 真実性又は相当性
(ア)被告《乙1》が訴状において献金であると主張する2億円は貸金であり,既に返済が完了している。被告《乙1》は,既に返済が済んでいる貸金を喝取されたなどと虚構を弄している。
(イ)被告《乙1》は,《乙3》名義の貸付・献金については無権利者である。被告《乙1》は,《乙3》名義の貸付につき,神社名義とすることによる税法上の利益を享受しており,契約主体が神社であることは承知していた。
(ウ)被告《乙1》は,原告《甲1》に対し,自らの信仰のために自由な意思に基づいて金員を提供したのであるから,原告《甲3》と共謀した同《甲4》から脅迫されたという事実はない。原告《甲1》において阿鼻叫喚地獄の教えは平成3年10月20日初めて具体的に説かれたものであるから,阿鼻叫喚地獄の教えが脅迫行為に用いられたということはありえず,脅迫行為の中心的部分に明らかなねつ造がある以上,請求すべてにつき理由がないことは明白である。
(エ)被告《乙2》が関係証拠を適切に調査したならば献金訴訟は提起されなかったはずである。

(4)被告《乙2》の行為が弁護士の正当業務行為となるか。
(被告《乙2》の主張)
 提訴記者会見は,弁護士である被告《乙2》が被告《乙1》の依頼により行ったものであるから,訴訟代理人としての業務に付随する弁護士業務の一環として行ったものであり,正当業務行為として違法性が阻却される。
(原告らの主張)
 被告《乙2》が代理人としてした訴訟提起は,軽率,不十分な調査のまま,あえて提起されたもので弁護士の正当業務行為として違法性が阻却される事例には該当しない。

(5)献金訴訟提起が不法行為となるか。
(原告らの主張)
 献金訴訟において敗訴の確定判決を受けた被告《乙1》が同訴訟において主張した権利等は,本来は自由意思に基づく献金を違法・不法な手続を弄して領得されたというのであるから,事実的,法律的根拠を欠くものであることは明白であり,被告《乙1》はそのことを当然に知りながら,また被告《乙2》はそのことを容易に知りえたのにあえて訴えを提起したのであるから,献金訴訟の提起は不当訴訟として不法行為を構成する。
(被告らの主張)
 献金訴訟提起は何ら違法性がない。

(6)本訴提起が不法行為となるか。
(被告《乙2》の主張)
ア 事実的,法律的根拠を欠くこと及びその認識
(ア)原告《甲1》が被告《乙1》又は《乙3》から2億円以上の献金交付を受けた事実がある以上,献金訴訟の訴状で請求している2億円を交付した時期について多少のずれがあったとしても,被告らの行為は何ら名誉毀損に該当するものではない。
(イ)原告《甲4》が献金勧誘をしたのは被告《乙1》のみであり《乙3》のその他の関係者は全く関わっていない。献金交付の名義の違いが名誉毀損を構成することはなく,原告《甲1》はそのことを当然に認識すべきであった。
(ウ)地獄の様相に関する《甲2》の言説と,これを増幅させた上でされた原告《甲4》の献金説得活動が,被告《乙1》に対して地獄の恐怖を煽ってその自由意思を侵害して強いて献金させたと評されるのは当然のことである。このような判断をして提訴することは,弁護士として極めて正当なものであり,弁護士の社会的責務ともいうべきものであって,これを非難する本訴の不当性は顕著である。
(エ)原告《甲1》は,いわゆる宗教的人格権に基づく損害賠償や懲罰的損害賠償の趣旨をふまえた請求がわが国の裁判所では認められるものではないことを自認していながら7億円もの請求をしている。

イ 裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くこと
(ア)原告《甲1》は,献金訴訟のような訴訟が相次いで発生することを防止するために本訴を提起したものである。
(イ)献金訴訟は,平成8年12月25日に提起され,その訴状副本は,平成9年1月6日に献金訴訟の被告らに送達された。原告らは,献金訴訟の答弁もせずに同月7日に本訴を提起した。原告《甲1》は,献金訴訟提起後一日も早く組織としての反撃防禦を行うため,献金訴訟の事実を真摯に調査することなく,弁護士業務について不法行為と構成するについて必要な諸事実について当然のことながら主張立証しえないことを認識して本訴を提起したものである。

ウ 損害の発生
 本件訴訟において321名もの弁護士が被告《乙2》の訴訟代理人に就任した。被告《乙2》は,文書のコピー代等の費用のほか,本訴に対する応訴活動のために肉体的・精神的な負担を被った。請求額が8億円という高額のものであることも被告《乙2》に精神的重圧としてのしかかった。これらの損害は優に800万円を上回るものである。

(原告《甲1》の主張)
ア 宗教においては社会的信用と宗教的権威とは連続性をもっている。本件において,原告《甲1》の無形損害は7億円を下るものではない。
 提訴記者会見とそのマスコミ報道は,布施(寄付)のお願いという原告《甲1》会員の日常活動そのものを問題にする性質のものであることから,それは個々の会員の信仰生活に著しい損害及び人権侵害を生ぜしめたものである。宗教的人格権が実体法上確立されていない現在,個々の信者に生じた損害は,宗教法人の損害額算定において考慮されるより他はなく,損害額は高額とならざるをえない。
 全国津々浦々にマスコミ報道され著しく毀損された原告らの名誉を回復するため,これら報道の内容が事実無根であることを本件訴訟決着時等に同一のマスコミに意見広告を2回掲載すると約7億円かかることも前記請求損害額の合理性を裏付けるものである。
イ 本訴は,名誉毀損につき,原告らの権利を守り,不法行為責任をただすために提起されたものである。
ウ 損害の発生に関する被告《乙2》の主張は争う。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件記者会見が原告らの名誉を毀損するか。)について
(1)記者会見を開いた上その内容が新聞やテレビで報道された場合において,その報道内容が特定人の名誉を毀損するか否かについては,一般の読者や視聴者を基準にして,その者が社会から受ける客観的評価を低下させるような事実を摘示したかどうかという観点から判断されるべきである。
 そして,本件各報道は,直接的には被告《乙1》を原告とする献金訴訟の提起の事実を報道するものではあるけれども,同時に,本件各報道は,前記前提事実のとおり,献金訴訟に関して,原告《甲1》の幹部らの被告《乙1》に対する言動として,「お金に執着していると地獄に落ちる」「命令に服従しなければ地獄に落ちる」等の脅迫が繰り返されたことや原告《甲1》の信者による被告《乙1》に対する嫌がらせが続いていることを摘示するとともに,原告《甲1》の元信者がこのような脅迫によって多額の献金をするに至ったことを強く印象づけるものである。その報道は,訴訟を提起した者の一方的主張を報道するにとどまるものではあるけれども,弁護士である代理人による提訴が,通常,事前に適正な事実調査と証拠の評価を経てされるものであることからすれば,一般の読者や視聴者に対し,被告《乙1》の主張にそれなりの根拠があるのではないかという印象を与えたことは否定できない。そうすると,本件各報道は,全体として,原告《甲1》が信者に対して脅迫によって献金を強要していること,また,原告《甲1》の意向に反する信者等に対して嫌がらせをしていることを印象づけるものとして,原告《甲1》の社会的評価を低下させる内容を有するものと認められる。
 そして,記者会見を開く者は,その会見の内容が報道されることを容認あるいは望んでいるのが通常であるから,会見における発言等と報道された内容とが著しく食い違う等の特別の事情がない限り,記者会見を開いた者は,その報道による名誉毀損について責任を負うべきものである。
 これを本件について検討すると,前記前提事実によれば,本件記者会見においては,参集した記者に献金訴訟の訴状及び配布資料が配布されていたこと,上記の各書面には原告《甲1》はもとより同《甲4》及び同《甲3》の氏名も実名で記載されていたこと,上記の各書面には本件各報道内容に沿って,原告《甲4》が再三にわたって被告《乙1》に対して教団に対して献金ないしは金員の貸付を強要し,あるいは貸付金の一部を布施とするよう強要したこと,そして,その一部は原告《甲3》との共謀によってされたこと,その強要の際には,逆らったら和合僧破壊の罪で除名してやるぞ,和合僧破壊は阿鼻叫喚地獄行きだからななどと言ったことが記載されていること,本件記者会見において,被告《乙2》は原告《甲1》信者らによる被告《乙1》に対する尾行や嫌がらせも続いていると発言をしたことが明らかであるから,これを本件各報道の内容と対比すれば,報道内容は,原告《甲1》に関する限り,記者会見における配布資料や発言の内容とほぼ一致しているものということができる。
 したがって,被告らは,本件記者会見を開いて本件各報道をさせたことにより原告《甲1》の名誉を毀損したものというべきである。

(2)これに対して,本件各報道は,被告《乙1》に対して脅迫を行った者について,これを原告《甲1》幹部らとするのみで,具体的に原告《甲3》及び同《甲4》であるとまで特定するものではない。そして,本件各報道が行われた平成8年12月当時,一般の読者や視聴者において,本件各報道にいう原告《甲1》幹部らが原告《甲3》及び同《甲4》を指すものであると特定することが可能であったという事情は認めることができないから,本件各報道は,原告《甲3》及び同《甲4》の社会的評価を何ら低下させるものではない。 したがって,本件各報道は同人らの名誉を毀損するものとは認められない。

2 争点(2)(資料集の送付,消費者セミナーにおける各種書面の配布ないし本件報告,日弁連ニュースの本件署名記事の執筆が原告らの名誉を毀損するか。)について
(1)資料集の送付について
 資料集の記載内容,被告《乙2》が資料集を約400名の弁護士に送付して本件訴訟における被告《乙2》の訴訟代理人となることを要請したことは前記前提事実のとおりである。
 ところで,資料集は,その全体の構成は,献金訴訟及び本件訴訟についての訴訟の経過を記載した文書であること,そして,資料集には,一方で,献金訴訟の訴状が添付され,それには前記前提事実のとおり,原告《甲1》の職員である原告《甲4》及び同《甲3》の脅迫による献金等の強要の具体的事実が記載されているけれども,他方では,原告《甲1》の作成した文書として「損害賠償請求訴訟の提訴の件」と題する書面が添付され,その中には,献金の強要がねつ造であること,献金と原告《甲1》の教義の関係に関する原告《甲1》側の主張やこれに伴う法律的主張も記載されていることが認められ,これらの記載は,上記訴訟における被告《乙1》の主張と原告ら双方の主張を記載したものであると認められる。しかも,資料集が専ら弁護士に対して送付されたものであることは,前記前提事実のとおりである。このような事情を考慮すると,資料集は,その送付を受けた者に対して,原告《甲1》が献金を強要したとの印象を与えることはないものと認められる。 したがって,資料集の送付は,原告らの社会的評価を低下させるものではなく,原告らの名誉を毀損するものとは認められない。

(2)消費者セミナー概要の弁護士会会長への送付について
 消費者セミナー概要の記載内容及び同書面が消費者セミナーの案内文書に添付される形で日本弁護士連合会から各弁護士会会長宛に送付されたことは前記前提事実のとおりである。
 しかしながら,そもそも消費者セミナー概要の作成ないし送付について被告《乙2》が関与したことをうかがわせる証拠はない。
 のみならず,前記前提事実によると,消費者セミナー概要は,セミナーの運営方法として「会員の扱った宗教関連の被害問題について報告してもらい,経験交流をしたいと思います」との記載,また,その報告者の中に「《甲1》問題弁護団」との記載があることがそれぞれ認められるほか,消費者セミナー自体のテーマが「宗教と消費者被害を考える」というものであったことが認められるのであって,これらによると,消費者セミナー概要の文書としての趣旨の中には,原告《甲1》の団体としての活動により何らかの被害が生じている可能性があるとの趣旨を読みとることができないわけではないけれども,他方,こうした趣旨は,要するに消費者セミナーの主催者である日本弁護士連合会及びリレートークを担当する各弁護団の意向として,参加者の中に宗教団体による被害が問題となったケースを取り扱った弁護士がある場合にその訴訟等における経験を披瀝することを呼びかけるものにすぎず,そこに列挙された各宗教団体に関連する被害の内容は何ら具体的に記載されていない。
 原告らは,この点について,他の宗教団体に関連する被害の具体的内容は当時社会において明らかであって,消費者セミナー概要の記載は原告《甲1》にも同様の問題があることを印象づけるものと主張するが,仮に当時の社会において他の宗教団体に原告らが主張するような問題が生じていたとしても,消費者セミナー概要の記載そのものは原告《甲1》について他の宗教団体と同様の問題があるということを何ら具体的に記載するものではない。
 したがって,消費者セミナー概要の記載は,原告《甲1》の社会的評価を低下させるものではなく,同書面の送付は原告らの名誉を毀損するものとは認められない。

(3)日程表の配布について
 日程表の記載内容及び同書面が消費者セミナー会場において同セミナーの参加者に配布されたことは前記前提事実のとおりであるが,日程表には,消費者セミナー概要と同様,何ら原告《甲1》の社会的評価を低下させる具体的な事実は記載されていない。
 したがって,日程表の記載は,原告《甲1》の社会的評価を低下させるものではなく,同書面の配布は原告らの名誉を毀損するものとは認められない。

(4)消費者セミナーにおける本件報告について
 前記前提事実及び証拠(甲162ないし164)によれば,消費者セミナーが一般公開によらない方法で開催されたこと,同セミナーには100名を超える参加者があり,参加者は主に弁護士であったこと,参加者に前記資料集及び被告《乙2》作成の「《甲1》問題」なる書面が配布されたこと,被告《乙2》がリレートークにおいて本件報告を行ったことが認められる。
 他方,本件報告の内容は,前記前提事実のとおり,原告《甲1》が全国で組織的に地獄の恐怖を煽って金を集めるということはやっていなさそうだとするものの,地域的,個別的には会員獲得及び資金獲得に熱心になる余り被告《乙1》のような被害を生じる可能性があることを含みを持たせて指摘するものであり,その発言のみをとってみると原告《甲1》の社会的評価を低下させるものといえないではない。しかし,被告《乙2》は本件報告に先立って前記資料集を配布したこと,そこには献金訴訟及び本件訴訟における各当事者双方の主張が記載されていること,しかも,本件報告を聞いた者が主に弁護士であったことという当時の具体的状況を総合考慮すると,本件報告は,全体として上記各訴訟における主張の内容を述べるものであり,当該報告そのものによって独自に原告《甲1》の社会的評価を低下させるものとは認められない。
 したがって,本件報告は原告らの名誉を毀損するものとは認められない。

(5)日弁連ニュースにおける本件署名記事の執筆について
 被告《乙2》が日弁連ニュースに本件署名記事を執筆したこと及び同記事の内容は,前記前提事実のとおりである。
 同記事の内容は,原告《甲1》の活動をしていた者が同教団から献金や貸付をさせられたこと,そのことに関して献金訴訟を提起したこと,献金訴訟提起後同教団から本訴を提起されたことを報告するものであって,何ら原告らの社会的評価を低下させる事実を含むものではない。
 したがって,同記事の執筆は,原告らの名誉を毀損するものとは認められない。

3 争点(3)(名誉毀損の真実性又は相当性)について
(1)上記1及び2により検討したところによると,原告らが主張する被告らの名誉毀損行為のうち本件記者会見については原告《甲1》に対する名誉毀損となるものと認められる。
 ところで,民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,同行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当であり,仮に同事実が真実であることが証明されなくとも,その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
 そこで,本件記者会見について,名誉毀損の真実性又は相当性を検討する。

(2)公共の利害に関する事実
 証拠(甲20ないし22,乙80ないし97,102,124,128ないし130,151及び152,161ないし163,165及び166,176ないし180,184及び185,187,206及び207,210ないし213,以上各枝番含む)によれば,原告《甲1》は平成8年7月の時点で信者数が1000万人を突破したと自称していたこと,原告《甲1》及びその関連会社である《甲5》株式会社は,「×××××」,「リバティー」,「ミラクル」等の多数の書籍を発行し,原告《甲1》の代表役員である《甲2》も多数の著書を執筆していたことが認められる。
 本件記者会見の内容は,原告《甲1》における献金獲得の方法,教団の活動の実態等に関する事実であるところ,上記のとおり大規模で多数の表現媒体を有する宗教団体の活動は社会的影響が大きく,その献金獲得の方法や活動の実態にかかる事項は社会一般の重要な関心事であるから,本件記者会見の内容は,公共の利害に関する事実にかかるものということができる。

(3)公益目的
 証拠(甲177の2,乙110,155,161の2,162の2,164の1ないし10,217,丙11,12,被告《乙1》本人,同《乙2》本人)によれば,被告らは,原告《甲1》の規模,従前同教団やその信者らが《A》等のマスコミ報道に対して多数の訴訟を提起する等の措置を講じてきたことから献金訴訟を提起することによる社会的影響が大きいと考えたこと,後記のとおり本件記者会見当時被告らは原告《甲1》関係者から被告《乙1》に対して嫌がらせが続いていると認識していたこと,被告らは,これらの事情から,訴状の内容を説明して正確に報道してもらい,原告《甲1》を含む多くの宗教団体の献金の集め方に注意を呼びかけるとともに,当時被告《乙1》に対して続いていた嫌がらせをやめてほしいことを表明するために本件記者会見を開いたことが認められる。
 そうすると,被告らが本件記者会見を開いた主要な動機は公益を図ることにあったと認められ,専ら公益を図る目的であったということができる。

(4)真実性又は相当性
ア 証拠(甲4ないし14,16ないし19,40,81ないし83,85の9ないし11及び13ないし18,88,89の1・2,90,92の1ないし14,93,126ないし134,175,177ないし179の各1・2,乙1の1・2,2の1ないし3,3の1ないし3,4の2,5の1・2,6の2,7の1・2,8の1ないし3,9の1ないし6,10ないし12の各1・2,17の1ないし5,18の1・2,20の1・2,26の1・2,98の1・2,122,155,216,被告《乙1》本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

(ア)被告《乙1》の原告《甲1》への入会及び入会後の活動状況
a 被告《乙1》は,昭和60年3月,早稲田大学教育学部を卒業して,印刷会社に就職した。被告《乙1》は,《乙3》の宮司をしていた《乙4》(以下「《乙4》」という。)に請われて,同63年2月25日,《乙4》及び《乙5》(以下「《乙5》」という。)夫妻の養子となり,《乙3》の宮司の地位を承継するために宗教行事の根本を身につけるため,平成元年9月から1年間の予定で山梨県北巨摩郡小淵沢町にある身曾岐神社で住込修業を開始した。被告《乙1》は,そのころ様々な宗教関係書を大量に読み漁るうち,《甲2》の著書に興味を引かれ,次第にその教えを正しいものであると信じ込むようになっていった。
b 被告《乙1》は,平成2年2月ころ,「《甲1》山梨地区連絡所」に電話し,応対した原告《甲4》の誘いで,同月10日ころ,同連絡所を訪問し,同人から山梨県下における原告《甲1》の信者組織の責任者であるとの自己紹介を受けた。
 そして,被告《乙1》は,平成2年2月13日,東京都千代田区紀尾井町所在の原告《甲1》総合本部事務所に,同教団の入会願書を持参して提出し,同月17日付けで会員として登録された。
c 被告《乙1》は,平成2年6月,身曾岐神社における住込修業を予定より早く終了させて《乙3》に戻り,養父母の実家で同居生活を送り,以後,週に1回程度の割合で原告《甲1》山梨地区連絡事務所に出かけてはビデオ学習会を受けたり,毎週1回開催される伝道日には知人に電話をかけてビデオ学習会への参加を勧誘したりする等の信者活動を行っていたところ,同年7月ころ,原告《甲4》から山梨地区東ブロックのブロック長になることを勧められてこれを承諾した。
d 《乙5》は,平成2年8月30日,同人の所有名義であった甲府駅北口の土地を約15億円で売却し,《乙4》も,同時期,同人の所有名義であった甲府市湯村の土地を3億円で売却した。被告《乙1》は,これらの土地売却の際,養父母の指示に従って売却手続を行い,土地の売却代金を《乙4》名義の銀行口座に入金して管理していた。
e 《乙4》は,被告《乙1》から原告《甲1》について話を聞いたり,被告《乙1》に勧められて《甲2》の著書を読んだりするうちに《甲2》の教えを高く評価するようになり,平成2年9月30日,原告《甲1》に入会し,平成2年10月28日の《乙3》創立10周年祭に当たり,同日付け「《乙3》要人へのお願い」と題する文書を《乙3》関係者に配布して原告《甲1》の運動への協力を呼びかけた。
f 被告《乙1》は,山梨地区東ブロックのブロック長に任命されたことから,原告《甲1》の組織活動に熱心に従事するようになり,平成2年11月8日及び同年12月27日,当時原告《甲1》の関東統括支部支部長ないし東京総括支部長を務めていた原告《甲3》から優秀伝道者として表彰状を授与された。
g なお,この間の平成2年11月22日,《乙4》が死亡した。

(イ)原告《甲1》に対する金員の交付1
 被告《乙1》は,原告《甲1》に対し,平成2年12月12日,1000万円(以下「金員1」という。)を交付した。原告《甲1》は,当初,金員1を《乙5》からの借入金として処理し,被告《乙1》に対し原告《甲1》・《乙5》間の同日付け金銭消費貸借契約書を交付したが,その後,同3年11月21日付けで金員1を献金に切り替え,被告《乙1》に対し《乙5》宛の同日付け領収証を交付した。
 平成2年12月15日,甲府市内のホテルにおいて,《乙4》死亡に伴う《乙3》責任役員会が開かれ,被告《乙1》はその代表役員に選任され,《乙3》の活動方針として原告《甲1》を支援していくことが決定された。
 被告《乙1》は,平成3年1月23日付けで,《乙5》の原告《甲1》への入会申込書を作成した。

(ウ)原告《甲1》に対する金員の交付2
a 平成3年1月,原告《甲4》を責任者として原告《甲1》山梨支部事務所が開設された。これに伴い,被告《乙1》は,山梨地区東ブロックのブロック長から山梨支部東地区の地区長に昇格し,以後ほとんど毎日のように支部事務所に出向いて原告《甲1》の組織活動に従事したり,同教団の講演会等に参加していた。
b 被告《乙1》は,平成3年1月14日に1億6500万円,同月17日に3500万円の合計2億円(以下「金員2」という。)を,それぞれ《乙3》名義で原告《甲1》《甲2》名義の口座に振り込んで原告《甲1》に交付した。原告《甲1》は,当初金員2を《乙3》からの借入金として処理し,被告《乙1》に対し原告《甲1》・《乙3》間の同月17日付け金銭消費貸借契約書を交付したが,その後,同年7月31日付けで金員2を献金に切り替え,被告《乙1》に対し《乙3》宛の金額2億0107万3972円(平成3年1月17日から同年7月31日までの利息込み)の同日付け領収証を交付した。
c 原告《甲4》は,被告《乙1》に対し,平成3年5月20日ころ,新たに3億円を原告《甲1》に貸し付けるよう求めたところ,被告《乙1》は,同月22日に2億円,翌23日に1億円の合計3億円を,いずれも《乙3》名義で《甲2》名義の口座に振り込んで原告《甲1》に交付した。上記金員のうち,平成3年5月22日に交付された2億円については,返済期限を平成4年5月22日とする《乙3》・原告《甲1》間の平成3年5月22日付け金銭消費貸借契約書が作成され,同4年5月19日,年3パーセントの割合による利息を付して原告《甲1》から《乙3》に返済された。他方,平成3年5月23日に送金された1億円については,返済期限を平成4年5月23日とする《乙3》・原告《甲1》間の同3年5月23日付け金銭消費貸借契約書が作成され,その後返済期日が変更され,その間原告《甲1》が年3パーセントの利息を支払い,最終的に平成5年5月21日,《乙3》名義の銀行口座に振り込まれて返済された。

(エ)被告《乙1》の原告《甲1》職員への就職
 被告《乙1》は,平成3年5月ころ,《乙3》名義で「御坂町の皆様へのお願い」と題する文書を町民に配布して,原告《甲1》の運動への協力を呼びかけ,「月刊×××××」の購読を勧誘した。
 被告《乙1》は,同年6月7日,原告《甲1》の職員採用面接を受け,同年7月1日,原告《甲1》の職員に採用された。そして,同月17日ころ,職員採用に伴い,「仏陀様から預からせていただいた山梨東部支部を日本一,いや世界一輝いた地域にしていきたいと思います…(中略)…伝道目標を必ず必達させていただきます」といった抱負,決意を開陳した「誓約書」を作成して原告《甲1》に差し入れた。

(オ)原告《甲1》に対する金員の交付3
 被告《乙1》は,平成3年7月2日及び同月11日に各1000万円,合計2000万円(以下「金員3」という。)を原告《甲1》山梨統括支部の口座に振り込んで献金し,山梨統括支部は,被告《乙1》に対し,平成3年7月2日に送金された1000万円のうち800万円については《乙5》宛の,残りの200万円及び同月11日に送金された1000万円については《乙3》宛の各同日付けの領収証を交付した(以下,金員1ないし3の献金を総称して「本件各金員」という。)。

(カ)その他の金員の交付
 被告《乙1》は,原告《甲1》に対し,本件各金員以外に,少なくとも,平成3年7月29日に2億5000万円,同年8月26日に7000万円,同年11月7日ころに1350万円,同年12月25日に4000万円,同4年5月26日に1億円,同5年5月27日に3億円を《乙3》名義で貸し付けた。被告《乙1》は,平成6年末ころ,原告《甲1》に対し,これら合計約7億7350万円に達する貸付金の返済を申し入れ,平成7年1月20日,何の問題もなく同貸付金の返済を受けた。

(キ)被告《乙1》は,平成4年8月1日,原告《甲4》の長女の結婚式及び結婚披露宴に出席した。そして,被告《乙1》は,同年10月20日付けで原告《甲1》を批判する記事を掲載した《A》に対して抗議する内容の陳述書を作成した。また,被告《乙1》は,同年11月,原告《甲1》山梨支部で開催された「幸福家庭祈願祭」に参加し,同式典において司会役を務めた。
イ 上記の認定事実と献金訴訟の訴状(本件記者会見でもその写しが交付されたもの)とを対比すると,まず同訴状において主張された平成3年5月20日ころに原告《甲1》に交付した3億円の金員のうち2億円についてこれを布施とすることを承諾させられたとする事実については,上記3億円は全額が貸付金として処理された上でその返済がされているものと認められるほか,同訴状において主張された事実のうち平成3年2月末ころに被告《乙1》が原告《甲4》に交付したとする金員400万円についてはそのような金員の交付自体を認めるに足りる証拠はないから,その限りで献金訴訟の訴状中には客観的な証拠関係から推定される事実関係と食い違った主張がされているものと評価できる。
 他方,本件各金員のうち,金員1及び金員2は,いずれも当初,原告《甲1》に対する貸付金として処理されたものが,その後,献金に切り替えられる処理がされた結果として(ただし,その名義は金員1が《乙5》であり,金員2が《乙3》であった。),被告《乙1》に対する返還等の措置は採られていなかったということができるものの,前記認定の被告《乙1》の経歴,被告《乙1》が《甲2》の教えに熱中して自らの意思で原告《甲1》へ入会したこと,同教団内での被告《乙1》の積極的な諸活動,退会に至るまでの経緯等を検討すると,被告《乙1》の原告《甲1》に対する一連の金員の交付及びこれに伴う原告《甲1》側の処理(借入金とするか献金とするか)については,被告《乙1》本人の意思に基づくか,あるいは,その了解を得てされたものと推認されるのであって,原告らから本件各金員の交付を不法に強要されたものと認めることはできない。
 したがって,被告らが本件記者会見において摘示した事実(献金訴訟における訴状の記載も含めて)が,真実であると認めることはできない。
ウ そこで,次に被告らが原告らから不法に献金を強要されたこと及び原告《甲1》関係者による嫌がらせが続いていたことを真実であると誤信したことに相当の理由があるかどうかを検討する。

(ア)まず,証拠(甲177ないし179の各1・2,乙64,66,67,75,97の3・4,99,102の1ないし4,105,111の1ないし8,112の3,121,122,131,189ないし200の各1・2,206の1ないし4,被告《乙1》本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件各金員が交付された前後の原告《甲1》の組織拡大又は資金獲得の活動状況に関して,次の事実を認めることができる。
a 原告《甲1》は,平成3年1月,「ミラクル91」「ミラクルダッシュ」と称して,会員を100万人にする活動方針を提示し,「ミラクル」と称する冊子や月刊「《甲1》」等の書籍を大量に作成してこれを広く頒布して会員勧誘に用いるよう傘下支部に指示し,支部ごとに目標を設定して組織の拡大を図った。
b 《甲2》は,平成3年2月17日,横浜市で開催された,「《甲1》 第1同大講演会 ミラクルへの出発」において,「さあ,目指せ100万人,本年中に…(中略)…今年中に集めてみせようではありませんか…(中略)…そのためのミラクルへの出発,そのためのミラクルダッシュ,そのためのミラクル宣言であります。がんばりましょう。」と話した。そして,原告《甲1》は,同年3月,会員を同年7月7日に100万人に,同年中には250万人にする目標を掲げた。
c また,《甲2》は,平成3年5月3日から5日まで,三重県鈴鹿市において開催された「5月研修 天使の条件」において,「100万人は,小さい…(中略)…まだ,何か月かかかると言っています。残念です…(中略)…私の言っている言葉を,見事実現させてください。」と話した。そして,原告《甲1》は,同年6月ころ,3000億円を集めて総本山ビルを建設する目標を掲げ,信者に対して日常的布施を呼びかけるようになった。d さらに,《甲2》は,平成3年7月15日,東京ドームにおいて開催された「《甲2》  IN TOKYO DOME 御生誕祭」において,会員が150万人に達したことを宣言するとともに,会員を年内に500万人,平成4年7月には1000万人にする目標を掲げた。
e 一方,原告《甲4》は,平成2年12月ころから,山梨地区の地区責任者として山梨支部開設に向けた資金集めを地区会員に呼びかけるなどしていた。また,原告《甲4》や同教団の他の幹部は,山梨支部(支部開設前は山梨地区)内の職員や会員に対し,たびたび行われていた研修,会議,講習会等の都度,原告《甲1》が掲げた前記aないしdの方針や目標を伝えるとともに,会員拡大や資金集めを呼びかけた。
f そして,原告《甲4》は,被告《乙1》に対しては,平成2年12月以降,地獄に落ちる等の死後の不幸を回避するために必要である等を述べて熱心に資金提供を求めた。
g 被告《乙1》は,原告《甲1》山梨支部が会員獲得のために仕入れた膨大な書籍の代金を負担していた。
 被告《乙1》の原告《甲1》に対する本件各金員の交付は,このような原告《甲1》の組織拡大の過程において,原告《甲4》からの資金提供要求を断ることができずに,同要求に応じてされたものである。

(イ)次に証拠(甲43ないし57(各枝番含む),187,189,乙122,143の1ないし3,144の1・2,146の1ないし4,147の1・2,148,155,182,188,227の1ないし4,被告《乙1》本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告《乙1》から原告《甲1》に対する貸付金の返済後の事情につき,次の事実を認めることができる。
a 被告《乙1》は,平成4年7月,原告《甲1》の信者としての活動を通じて知り合った《乙6》と結婚し,同人との間に,同年7月に長男《乙7》,同6年6月に二男《乙8》をもうけた。
b 被告《乙1》は,平成6年4月,原告《甲1》東京本部,同7年1月,同教団総合本部秘書局へ異動し,秘書局への異動後は,東京都品川区東五反田のマンションに居住して,《甲2》の私邸とその近くにある事務所で働くようになり,同年6月,妻子を東京都港区白金のマンションに住まわせた。
c 被告《乙1》は,原告《甲1》に対する約7億7350万円の貸付金(前記ア(カ))の返還を受けた平成7年1月20日以降,原告《甲1》関係者から,返済を受けた金員を献金するよう求められるようになった。
 また,被告《乙1》は,平成7年12月11日,原告《甲1》の役職員らから,同教団総合本部に呼び出され,当時同教団の事務局次長を務めていた《甲6》(以下「《甲6》」という。)及び環境整備室部長を務めていた《甲7》(以下「《甲7》」という。)から創価学会のスパイであると疑われて強く糾問され,そのこと等から同教団を退職することとし,翌12日,同教団職員の辞表を同教団総合本部宛に郵送した。
d 平成7年12月14日,《甲7》が,白金の被告《乙1》の自宅を訪れ,インターホン越しに《乙6》を怒鳴り散らし,《乙6》が警察に通報するという出来事があった。被告《乙1》は,翌15日,白金の自宅付近で原告《甲1》関係者を目撃したため,警察に相談した。
e 原告《甲1》職員であった《B》(以下「《B》」という。)は,被告《乙1》に対し,平成8年2月,原告《甲1》に1億円を提供するように求める英文の手紙1通を,同月及び翌3月,被告《乙1》の財産を原告《甲1》のために使ってほしい,そうしないと被告《乙1》のみならずその妻子まで道連れになって地獄に落ちることになる,それだけの覚悟があるのかという内容の手紙2通をそれぞれ送付した。
f なお,被告《乙1》が原告《甲1》を退職した平成7年12月以降,被告《乙1》の自宅の電話及び携帯電話に,相手方が不明の電話が頻繁にかかってくるようになった。そこで,被告《乙1》は,この電話が原告《甲1》関係者によるものであると考えて,自宅の電話番号及び携帯電話の電話番号を数回変更するとともに,平成8年4月,港区白金のマンションから世田谷区成城のマンションに転居した。

(ウ)さらに,証拠(甲48ないし58(各枝番含む),乙155,丙11,被告《乙1》本人,被告《乙2》本人)によれば,被告《乙1》が上記のような一連の事態について被告《乙2》に相談した経緯に関して,以下の事実を認めることができる。
a 被告《乙1》は,平成7年12月中旬,被告《乙2》に対し,原告《甲1》から離職証が発行されないこと,以前に刑事事件の捜査に貢献したことで警視庁から被告《乙1》に送られた感謝状と記念品を原告《甲1》が保管したまま返還しないこと,原告《甲1》の幹部からスパイと疑われたこと,これまでに数億円の献金被害があること等を訴えて相談した。しかし,被告《乙2》は,当時,別の事件について原告《甲1》の訴訟上の相手方代理人をしていたことから,同教団の組織内部の問題であれば,被告《乙2》ではなく他の弁護士が代理人になった方が平穏に解決できるとの理由でこのときは受任しなかった。b 被告《乙1》は,平成8年2月初旬,被告《乙2》に対し,原告《甲1》の職員を円満に退職するに当たっての事務処理手続だけでもよいから受任してほしいと強く依頼したところ,被告《乙2》は,退職事務処理手続に限定して,杉山弁護士(以下「杉山」という。)と共同して受任することにして,献金被害についてはその後詳しく事情を聞いた上で受任するかどうかを考えることにした。
 被告《乙2》及び杉山は,平成8年2月15日以降,原告《甲1》に対し,離職証の発行,感謝状と記念品の返還,スパイ嫌疑に関する名誉回復措置を求める通知を発したところ,原告《甲1》は,同月,被告《乙1》に対し,離職証を発行し感謝状及び記念品を返還した。ところが,名誉回復措置に関しては原告《甲1》からの謝罪がなかったため,被告《乙2》及び杉山は,引き続き通知を発して,原告《甲1》との交渉を続けた。
c なお,被告《乙2》は,平成8年5月ころ,被告《乙1》から甲府市内の家屋に関する家屋明渡請求訴訟の依頼を受け,同事件が一般的な民事事件であったことからこれを受任した。
d 被告《乙1》は,被告《乙2》と前記受任事務の打合せを重ねている過程である平成8年7月,金銭的被害にあったとする内容を一覧表にして被告《乙2》に持参し,同被害について被告《乙2》に相談した。しかし,被告《乙2》は,各金銭交付時の状況を具体的に詳しくまとめる必要があること,被告《乙1》が《甲2》に対する信仰を持ち続けているのであれば原告《甲1》の法的責任を問うことは困難なことを指摘して,被告《乙1》に対し再考するよう促し,このときは献金被害に関する事務を受任しなかった。
e 被告《乙1》は,平成8年10月初旬,自ら作成した陳述書及び金銭的被害に関する資料を整理して,被告《乙2》の下へ持参した。被告《乙2》及び杉山は,これらの資料を検討した結果,同月末ころ,渡辺博弁護士及び朝倉淳也弁護士を加えた4名の弁護士で献金被害に関する事務を共同受任した。
f 被告《乙2》は,被告《乙1》が持参した資料を検討する過程で,平成2年から平成3年にかけて原告《甲1》の急激な組織拡大があり,山梨支部をはじめ全国の支部でも過大な会員拡大の指示が出されたこと,《甲2》の地位をことさら強調する組織運営がされていたこと,原告《甲1》発行の書籍において地獄の様相が具体的に描写されていること,《甲2》が自ら信者に献金の必要性を説いていること,本件各献金が一人で甲府に養子縁組に行き唯一頼れる《乙4》に死なれたという被告《乙1》の当時の状況の中で行われていること,被告《乙1》が,原告《甲1》に対して,入会後短期間に極めて多額の金員を交付していることから,本件献金が,被告《乙1》の置かれた弱い立場を利用して,地獄の恐怖を煽ってされた違法なものであると判断するに至った。
g 被告《乙1》は,訴訟提起の準備を進めていた平成8年10月末ころ,正式に原告《甲1》を退会することを希望して,被告《乙2》及び杉山に対し,その旨通知するよう依頼し,被告《乙2》及び杉山は,原告《甲1》に対し,同年11月18日,同日付けの退会通知書を郵便で差し出した。
h 被告《乙2》は,《B》から送られてきた手紙の内容,打合せのため被告《乙1》に電話してもつながらないことが再三あったこと等から,原告《甲1》関係者が被告《乙1》に対して尾行やいたずら電話等の嫌がらせを行っているという被告《乙1》の訴えが真実であると判断した。

エ 以上の各認定事実によると,原告《甲1》は,平成2年12月以降団体の活動方針として,組織拡大,資金獲得活動に熱心であったこと,被告《乙1》から原告《甲1》に対する一連の金員の交付は,このような教団拡大の過程で行われたものであること,また,その金額も本件各金員のみに限定しても1000万円から2億円に上るものであって,通常,無償の行為としてされるものとしても常識的に了解される範囲を超えていること,しかも,その期間は被告《乙1》が原告《甲1》に入会した平成2年2月以降,同年12月から翌平成3年7月までの短期間に行われていること,そして,上記金員の交付の過程又はこれを献金に振り替える過程においては,原告《甲4》から被告《乙1》に対して地獄の恐怖と関連づける形の勧誘が行われていることがそれぞれ認められる。また,平成7年1月20日に被告《乙1》が原告《甲1》から7億円余りの貸金の返済を受けた後の原告《甲1》幹部らの被告《乙1》に対する対応についてみても,《B》から被告《乙1》への手紙の内容は,被告《乙1》の財産を原告《甲1》のために使うよう再三にわたり慫慂するものであり,しかもその際の勧誘の方法として,上記同様に地獄という文言が用いられていることが認められる。
 以上によると,被告《乙1》本人においては,献金訴訟提起当時の時点において,本件各金員の交付が原告《甲1》の職員による強要によるものであると信じたとしてもやむをえないところであると認められる。そして,被告《乙2》において,被告《乙1》から本件各金員の交付に関する事情につき陳述書等による報告を受け,その内容を検討した上これに法律的な評価を加えて,それが脅迫行為による献金であるとの可能性がある旨の判断を下したとしても,これをもって不当ということができず,その判断には合理的な根拠があったものというべきである。
 また,前記認定の事実によると,被告《乙1》が原告《甲1》を退職した平成7年12月以降,同人に対して相手方不明の電話が頻繁にかかってくるようになったことが認められ,被告《乙1》と原告《甲1》の当時の関係に照らすと,同人が上記のような電話が原告《甲1》の関係者によるものと信じたことについては,それなりの根拠があったものというべきであり,被告《乙2》がそのように信じたことについても同様の根拠があったものと認められる。
 以上によると,被告らにおいて,被告《乙1》が献金を強制させられたと信じたこと及び原告《甲1》関係者による嫌がらせがあったと信じたことにはいずれも相当の理由があったと認められる。
 なお,前判示のとおり,被告らが献金訴訟の訴状において献金であると主張した平成2年5月20日ころの2億円については,それは貸付金として処理され,既に返済済みであることが認められ,その限りでは本件記者会見において配布された訴状写しに記載された具体的事実関係と客観的に判明した事実の間には食い違いがある。
 しかしながら,他方,前判示の事実によると被告《乙1》は原告《甲1》に対し,《乙3》名義で平成3年1月14日及び17日に合計2億円(前記金員2),同年5月22日に2億円,同月23日に1億円の各金員の交付をしたものであり,このうち同年1月に貸し付けた2億円が同年7月31日に献金に切り替えられたこと,同年5月に貸し付けた合計3億円がその後返済期限が変更された後に返済されたことが認められるほか,被告《乙1》は献金と主張する金員以外にも被告《乙1》から原告《甲1》に対し多数回にわたり極めて多額の金員を交付していたこと,及び本件記者会見時において返済されていない2億円の献金が存在していたことが認められる。そして,被告らが献金訴訟を提起するについては手元にあった資料を十分に検討した結果として5月に貸し付けた2億円が献金に切り替えられたものと理解したものと認められる。そうすると,被告らは,当時存在した合計5億円の金員の交付のうちどの部分が献金に切り替えられたのかの判断を誤ったにすぎず,ことさらに金員の貸付を献金とする虚構の事実を作出したものとは認められない。
 以上によると,献金訴訟の訴状の記載の上記のような事実との食い違いについても,これをもって摘示事実に重大な虚偽があるとか,摘示事実を真実と信じるにつき相当の理由がなかったということはできない。
 また,献金訴訟で被告らが主張した事実のうち,原告《甲4》に対する平成3年2月末日ころの400万円の金員交付については,そのような金員交付の事実を認めることはできないことは前判示のとおりであるけれども,証拠(乙139)によれば,被告《乙1》名義の預金から,平成3年4月26日に300万円,同年5月2日に77万7000円の金員がそれぞれ引き出された事実が認められるのであって,これによれば,被告らにおいて400万円の交付がされ,かつ,それが強要されたものと信じることにはそれなりの根拠があったと認められる。また,この400万円は被告《乙1》が献金訴訟において献金を強制されたと主張する2億3400万円の中ではわずかなものにすぎない。したがって,400万円の交付が認められないことは,前記被告らの相当性を否定する根拠となるものではない。

オ ところで,原告らは,以下の事実を指摘して,被告らが献金被害を真実であると信じるにつき相当の理由はなかったと主張するので,この点について検討する。
(ア)献金交付の名義について
 原告らは,本件各金員交付の名義が,被告《乙1》個人ではなく,《乙5》又は《乙3》名義であったと指摘して,被告らが被告《乙1》を被害者としたことは,金銭所有権を偽ったものであると主張する。
 確かに前判示の事実によると,被告《乙1》から原告《甲1》に交付された金員のうち,平成3年1月14日及び17日に交付された合計2億円については,当初,《乙3》と原告《甲1》との間の金銭消費貸借契約書が作成された上,これが献金に切り替えられた際にもその領収書の宛先は同神社となっていたこと,平成3年5月22日に交付された2億円についても貸付金として《乙3》と原告《甲1》との間の金銭消費貸借契約書が作成されていることが認められる。
 しかしながら,前記ア(ア)認定の事実及び証拠(甲177の1・2,乙122,133)によれば,被告《乙1》は《乙4》及び《乙5》の土地の売却代金について,いずれ《乙4》の地位を承継するものであるからその管理をするように《乙4》及び《乙5》から言われ,《乙4》名義の銀行口座に入金して自らこれを管理していたこと,その後《乙3》の名義にしておいた方が税金等の点で都合がよいと考えて平成3年1月10日《乙4》名義の約8億7000万円の預金を《乙3》の口座に移したこと,被告《乙1》は《乙5》の土地を売却した際買主から5000万円の謝礼を受け取りこれを現金で保管していたこと,被告《乙1》は,同人が保管していたこれらの預金及び現金を資金として本件各献金をしたこと,本件各献金について原告《甲1》関係者から被告《乙1》以外の者に対して献金勧誘が行われたことがないことが認められる。
 そうすると,これらの事実を前提として,被告らが被告《乙1》を被害者と考えたことには十分な理由があったというべきである。
(イ)阿鼻叫喚地獄の用語について
 原告らは,被告《乙1》に対する脅迫に用いられたと被告らが主張する「阿鼻叫喚地獄」の語は,本件各金員交付の時点では,未だ原告《甲1》において語られていなかったと主張して,脅迫行為の中心的部分である脅迫文言に虚偽がある以上,被告らには献金被害を真実と信じるにつき相当の理由はないと主張する。
 しかしながら,証拠(甲85の7,乙195の1・2,210の1ないし3,224の1・2,被告《乙1》本人)によれば,《甲2》は,平成3年3月24日,北九州市で開催された「《甲1》 第2同大講演会 発展思考」において,「例えば1年で100万人の方が亡くなられるとしたら,このうちの50万人以上は間違いなく,あの地獄といわれる世界に行くのです…(中略)…阿鼻叫喚という非常に厳しい地獄もあります。責め苛まれる地獄です。心が休まるときはない。それはまた,ある意味において自責の念,自分を責める念でもあります…(中略)…そうした地獄もございます。」と語ったこと,被告《乙1》は,同講演に参加して《甲2》の話をノートに書き留めたことが認められる。
 したがって,原告らの主張はその前提を欠くものであるから,被告らが被告《乙1》の脅迫被害を真実と信じたことに相当の理由がなかったということはできない。

(5)以上のとおり,被告らが,本件記者会見における摘示事実を真実と信じることには相当の理由があるから,被告らに故意又は過失はなく,名誉毀損に関する原告らの請求は理由がない。

4 前記のとおり,名誉毀損に関する原告らの請求は理由がないから,争点(4)(被告《乙2》の行為が弁護士の正当業務行為となるか。)については判断する必要がない。

5 争点(5)(献金訴訟提起が不法行為となるか。)について
(1)訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者が主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
(2)前記3認定判断のとおり,被告らは,本件記者会見の当時,その摘示する事実が真実であると信じるにつき相当の理由があったのであるから,本件記者会見と同日である献金訴訟提起時において,献金訴訟において主張した損害賠償請求権が事実的,法律的根拠を欠くものであったということはできず,また,被告らが事実的,法律的根拠を欠くものであることを知っていた,あるいは通常人であれば容易に知りえたということもできない。 したがって,献金訴訟の提起が同要件に照らして違法とならないことは明らかである。

6 争点(6)(本訴提起が不法行為となるか。)について
(1)前記前提事実によると,献金訴訟は平成8年12月25日に提起されたこと,これに対して本訴は平成9年1月7日に提起されたことが認められ,その間の期間は約2週間と比較的短期間であることが認められる。
 そこで,原告《甲1》における本訴提起に至るまでの意思形成の過程について検討する。

(2)この点に関して,本訴提起当時原告《甲1》事務局長の地位にあった《甲6》の証言(以下「《甲6》証言」という。)の要旨は以下のとおりである。
ア 《甲6》は平成8年12月25日午後4時ころ本件訴訟の訴状を報道機関から送信されたファックスによってその内容の概略を知った。
イ 《甲6》は訴状の概略を把握した後,原告《甲4》に対する事情聴取等の調査をしたところ,被告らの献金訴訟における主張が事実無根であるとの判断に達したため,原告《甲1》の名誉を守るために,本訴を提起することを自ら決定した。
ウ なお,上記の調査によっては,被告《乙1》から原告《甲1》に対して交付された金員のうち献金に切り替えられたものがあったかどうかについては把握していなかった。
エ そして,本件訴訟の請求額をどのようにするかについては,《甲6》本人としては原告《甲1》の信者らの精神的苦痛を考えると,20億円ないし30億円程度の高額な請求が妥当と考えていた(しかし,翌26日,弁護士と相談した結果,被告らの主張に対して雑誌,テレビ等の報道機関で反論するための経費として7億円が相当であろうとの意見を書面で提示されたので,それに従った。)。
オ 以上の経過で本訴を提起することを決定したため,《甲6》は12月25日午後6時ころにその旨を《甲2》に報告した(本訴提起そのものの意思決定については《甲2》は関与していない。)。その際,《甲2》からは事実関係についてはよく調査するようにとの指示があった。

(3)上記《甲6》証言のうち,《甲6》が献金訴訟の訴状の写しを手に入れた後,原告《甲4》からの事情聴取等の調査を指示し,その調査結果に基づいて本訴を提起する旨の決定をしたとする部分についてみると,前記3(4)ア認定のとおり,被告《乙1》と原告《甲1》間においては極めて多額,多数回の金員の交付がされており,わずか2時間でこれらの金員交付の事実に関する調査を終了し,原告《甲4》からの事情聴取をした上で,本訴提起を決定したという証言内容自体不自然であるといわざるをえない。
 また,本訴提起を決定する時点において《甲6》が入手していたとする献金訴訟の訴状中には,平成3年5月20日ころの被告《乙1》による2億円の金員交付の事実が記載され,これを献金であるとの主張がされていたことが認められるが,これに対し,原告《甲1》側においては上記金員交付については借入金との認識を有していたことが認められる。しかし,上記金員の交付以外に献金に切り替えられた金員が存在するかどうかは極めて重要な事実であるところ,平成3年1月14日及び17日に交付された2億円が献金に切り替えられたとの事実について,《甲6》は,「(平成8年12月25日に)把握しておりました」といったん証言しながら,後には「後から調べて分かりました。」「それは,この裁判をやっている途中のことです。」と証言を翻し,最終的には,本訴提起時点では上記事実は知らなかったとしている。これらの事情に照らすと,本訴提起に際して献金訴訟で主張された事実関係について必要な調査を遂げたとする《甲6》の証言には疑義があるものというべきである。
 次に《甲6》証言のうち,本訴における原告《甲1》の7億円の請求額を決定した経緯に関する部分についてみると,平成8年12月26日の段階で法務担当弁護士から7億円の広告掲載料を具体的に示した書面等を提示され,反対意見の広告費用に相当する額として8億円(原告ら合計)の請求額を決めたというのである。
 しかし,本訴の訴状中の請求原因における損害額に関しては,上記のような反対意見の広告に要する費用に関する記載は一切なく,単に信者らの精神的苦痛の慰謝に関する主張が記載されているのみであり,《甲6》証言の内容と符合するものとなっていない。
 しかも,《甲6》は,現実にテレビ局で意見広告を放送してもらう見込みについては,そのようなことはできないことを承知していたにもかかわらず,視聴率換算で意見広告費用を算出したなどと証言をしていること,《甲6》が広告掲載料を具体的に示した書面を提示されて損害額を算出したのであれば,訴訟の早期の段階から広告費用の算出に関する書証が提出されてしかるべきであるのに,本件においては,《甲6》の証人尋問実施後である平成12年4月20日の本件第15回口頭弁論期日以降になってようやく広告費用に関する書証が提出されていることに照らして考えると,本訴の請求額7億円を算定した根拠に関する《甲6》証言も採用することができないものである。
 以上によると,《甲6》証言は,原告《甲1》が本訴を提起するに至るまでに行った調査の内容の点及び本訴における請求額を決定した経緯の点という重要な事実関係について必ずしも合理的な説明がされたものとは認められず,そのことは,本訴提起の意思決定自体が《甲6》によってされたとの同人の証言の趣旨自体に疑義を入れざるをえないものである。

(4)そこで,上記意思決定の経緯について検討すると,証拠(甲20,175,189,乙110,113,161の2,162の2,164の1ないし10,208の1・2,209,217,218,224の1・2,229ないし231,233の1ないし3,丙15ないし17,19の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 《A》は,「週刊××」平成3年7月6日号,「週刊×××××」同年8月23日・30日号,「月刊××」同年10月号等において,原告《甲1》の活動を批判する内容の記事を掲載した。そこで,原告《甲1》及び同教団の多数の信者は,《A》等に対し,「精神的公害訴訟」と銘打った数多くの訴訟を提起し,電話やファックスによる抗議,デモ行進等の抗議行動をとった。そのため,原告《甲1》と《A》の対立関係は,当時,社会的に注目されるようになった。
 《甲5》株式会社は,平成5年,《A》に対し,約30億円の損害賠償請求訴訟を提起した。
 そして,《甲2》は,平成5年6月ころ,原告《甲1》の幹部に対し,書面をもって「予備訴訟の件 出版の営業妨害訴訟に引き続き,次のような訴訟が予備訴訟(次のパトリオット・ミサイル)として考えうるか検討のこと…(中略)…(対象)《A》(社長,広報室長?)…(中略)…(形式)民事訴訟 1000万円か場合によってはそれ以上。(時機)先方攻撃が増えた時」という指示を与えた。
イ 原告《甲1》は,平成7年ころ,当時敵対すると考えていた創価学会を批判する内容の書籍等を編集した。
 そして,《甲2》は,平成7年1月ないし3月ころ,原告《甲1》の幹部に対し,書面をもって「対S対策 基本的には言論戦によるマスコミ的戦いを中心とする…(中略)…地上兵力を動員しての白兵戦は敵に利があるので極力避ける(電話,FAX,大勢を繰り出しての威迫,抗議集会,戦闘用の出城づくり,警備要員の採用,武器まがいのものを用意することなど)…(中略)…邪教と同じスキャンダルを出さない…(中略)…通常業務から離れた戦時特別支出(対S,対K,対その他邪教,対その他マスコミ,対政治関係)に関しては,随時主宰決済とする(1件300万円以上のもの,同一性質のものの分割は許可しない)」等の指示を与えた。
ウ 原告《甲1》は,平成7年ころ,当時敵対すると考えていたオウム真理教を批判する内容の書籍を編集した。
 そして,《甲2》は,同年3月ころ,原告《甲1》の幹部に対し,書面をもって「オウムの件…(中略)…民事の名誉毀損で当会を訴えてきた場合。相手の10から100倍の額の名誉毀損で訴え返す。相手は弁護士1名限りなので,当方は東京,大阪等2つ以上の場所で提訴することもありえる…(中略)…相手もブラフなので,当方もブラフ(おどし)として使えばよい」等の指示を与えた。
エ 《甲2》は,本訴提起当時,原告《甲1》の主宰,代表役員として,同教団の事務を総理する権限を有していたところ,平成6年ころにおいて,その権限は,前記指示の他,教団内の組織のあり方についての指示,給与体系の見直し,法名の授与,出版物の企画,講師昇格の人事等細部にまで及んでいた。
 以上アないしエの事実を総合すると,原告《甲1》の代表者である《甲2》は,本訴提起以前の平成7年ころから,同教団を批判する者に対して積極的に反論をしていく姿勢を有していたのみならず,これらの者に対する攻撃手段,威嚇手段として訴訟制度を利用する意図を有していたことがうかがわれる。

(5)次に本訴における請求額についてみると,原告《甲1》の請求額である7億円は,名誉毀損を請求原因とする損害賠償請求訴訟又は相手方の訴えの提起が不法行為に当たることを請求原因とする損害賠償請求訴訟において,わが国において,単一の当事者に対して認容されたことがない金額であることは当裁判所において顕著な事実である。
 もとより,一般に上記訴訟において,特にその損害内容が精神的苦痛にある場合には,訴えを提起する原告が主張する請求額は比較的高額に設定されるのが通常であり,その金額と裁判所の認容額とを対比すれば,請求額が認容額の数倍であることはもちろん,場合によって数10倍に達することも必ずしも稀ではない。
 しかしながら,本件については,上記のような事情を考慮したとしても,本訴の請求額は異常に高額なものであるといわざるをえない。この点は,仮に原告《甲1》が数100万人単位の信者を有する団体であることを考慮したとしても変わりがないというべきである(原告《甲1》は法人としての名誉毀損ないし信用の毀損について本訴請求をしているのであるから,構成員が多数であることはその社会的影響の多大さにつき考慮される事情ではあるにしても,請求額を積算的に膨大にするという性質のものでないことは明らかである。)。
 以上によると,本訴の請求額は,単にそれが認容される見込みがないというのみならず,この種の訴訟において通常主張される請求額の範囲をも超えて不相当に高額なものというべきである。

(6)以上によると,《甲2》は原告《甲1》の代表者として,同教団に敵対する者に対する攻撃ないしは威嚇の手段として訴訟を用いるとの意図を有していたこと,本訴の請求額が従来のこの種の訴訟における請求額の実情を考慮したとしても不相当に高額であることが認められ,これに前記認定のとおり,本訴提起に至った経緯に関する《甲6》証言の内容が合理的な内容を有するものとは認められないことをも併せ考慮すると,本訴提起についての意思決定は,仮にそれが《甲2》自身によるものではないにしても,《甲2》の意図を体現した原告《甲1》の組織的意思決定としてされたものというべきである。そして,特に本訴が献金訴訟の提起からわずか2週間程度の短期間で提起されていることに照らすと,本訴提起の主たる目的は,献金訴訟を提起した被告《乙1》及びその訴訟代理人である被告《乙2》各個人に対する威嚇にあったことが認められる。

(7)よって,原告《甲1》は,主に批判的言論を威嚇する目的をもって,7億円の請求額が到底認容されないことを認識した上で,あえて本訴を提起したものであって,このような訴え提起の目的及び態様は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き,違法なものといわざるをえない。

(8)前記認定の経過に照らすと,被告《乙2》は原告《甲1》の違法な本訴提起によって甚だしい精神的苦痛を被ったことが認められるので,これに対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。
7 以上によれば,原告らの本訴請求は,その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却し,被告《乙2》の反訴請求は,原告《甲1》に対し100万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成9年8月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告《乙2》のその余の反訴請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条ただし書,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部
裁判長裁判官 土屋文昭 裁判官 神坂尚 裁判官 今井理

(別紙1)《略》

(別紙2)お詫び
 私は,宗教法人《甲1》の元会員F氏の代理人として,宗教法人《甲1》及び貴殿らに対して,同法人の職員である貴殿らがF氏を脅迫,欺罔して多額の献金を強制した等虚偽の事実を記載した訴状によって損害賠償請求訴訟を提起し,提訴に際して記者会見を行い右訴状を配布し,さらに右訴状等を掲載した小冊子を全国の多数の弁護士に配布する等し,宗教法人《甲1》及び貴殿らの名誉を毀損するとともに宗教法人《甲1》及び関係者に多大なご迷惑をおかけ致しました。
 よって,宗教法人《甲1》及び貴殿らに対して謹んでお詫び申し上げます。
平成 年 月 日
弁護士 《乙2》
宗教法人《甲1》 殿
《甲4》 殿
《甲3》 殿

(別紙3)謝罪文掲載要領
1 謝罪文を掲載する媒体
 日本弁護士連合会が発行する「日弁連新聞」
2 謝罪文の大きさ
 縦約10.3センチメートル,横約4.6センチメートル
3 使用する活字,文字間隔,行間隔
(1)表題の「お詫び」とある部分,末尾の「弁護士《乙2》」及び「宗教法人《甲1》殿」「《甲4》殿」「《甲3》殿」とある部分はそれぞれゴシック体9ポイント活字
(2)本文及び日付は明朝体8ポイント活字
(3)文字間隔
 本文は2.7ミリメートル,その他の部分は相応な間隔
(4)行間隔
 相応な間隔

(別紙4)お詫び
 私は,宗教法人《甲1》の元会員F氏の代理人として,宗教法人《甲1》及び貴殿らに対して,同法人の職員である貴殿らがF氏を脅迫,欺罔して多額の献金を強制した等虚偽の事実を記載した訴状によって損害賠償請求訴訟を提起し,「第9回夏期消費者セミナー『宗教と消費者問題被害を考える』」において事実と異なる報告をし,さらに,1997年9月10日発行の「日弁連消費者問題ニュース」紙上に事実と異なる報告を掲載し,宗教法人《甲1》及び貴殿らの名誉を毀損するとともに,同法人及び関係者に多大なご迷惑をおかけ致しました。
 よって,宗教法人《甲1》及び貴殿らに対して謹んでお詫び申し上げます。
平成 年 月 日
弁護士 《乙2》(第二東京弁護士会会員)
宗教法人《甲1》 殿
《甲4》 殿
《甲3》 殿

(別紙5)謝罪文掲載要領
1 謝罪文を掲載する媒体
 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会が発行する「日弁連消費者問題ニュース」
2 謝罪文の大きさ
 縦約5.0センチメートル,横約7,2センチメートル
3 使用する活字,文字間隔,行間隔
(1)表題の「お詫び」とある部分,末尾の「弁護士《乙2》(第二東京弁護士会会員)」及び「宗教法人《甲1》殿」「《甲4》殿」「《甲3》殿」とある部分はそれぞれゴシック体9ポイント活字
(2)本文及び日付は明朝体8ポイント活字
(3)文字間隔
 本文は2.7ミリメートル,その他の部分は相応な間隔
(4)行間隔
 相応な間隔
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