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2-2 天上界が計画した? 二つの結婚

2009/12/14 06:17  Category:「虚業教団」 関谷晧元

                    第2章  「神」は結婚を命じ給うのか?


  天上界が計画した? 二つの結婚

 「それでこの際、関谷さんにも結婚していただくことになりました」
 まるで事務処理を指示するような調子で、大川隆法が言った。
 思わず自分の耳を疑った。大川が結婚するのはいい。相手が誰でも、先生と呼ぶ人の結婚を、私は心から祝福するだろう。しかし、なぜ私が……。妻と五年間も別居しているとはいえ、まだ夫婦である。その私に結婚せよという大川の言葉は冗談としか思えなかった。
 不思議なことに、大川とあれほど身近に接していながら、大川との個人的な会話はあまり私の記憶に残っていない。人の心に感動を呼び起こすもの、鮮烈な印象を残すものが少なかったように思う。しかし、このときの話はさすがに今でもハッキリと覚えている。記憶に従って、できるだけ忠実に再現してみよう。

「先生、何をおっしゃいます。第一、私には相手がいませんし、そんな段階ではありません」
「いや、それがちゃんと決まったんです。天上界の(高橋)信次先生からの通信です。これはもう、明日入籍していただきます。お正月には新婚旅行に行っていただくことになっています」
「ハハハ……。なんだ、冗談ですか。先生も悪趣味ですね。でも、先生が結婚されるのははんとうでしょうね」
「とんでもない。これは神託結婚です。天上界の計画通りにしていただきます」

 言うべき言葉が見つからなかった。
「関谷さんのお相手は、もう決まっているんです」
「どんなふうに決定しているんですか。どこにそんな人がいるんですか」
「はい、ここにいますよ。ほら!」
 大川のこの声を待っていたように、中原幸枝がパッと畳に手をついた。
「関谷さん、よろしくお願いします」
「エッ! アレ! …… そ、そりゃぁない……」

 このように書けば、一場の喜劇でしかない。ドタバタ喜劇のおかしさは、人間の尊厳というものを踏みにじるところに生まれる。だからピエロたちの演技はどこか悲しい。
「よろしくお願いします」 と手をついた中原の心中はどうだったろう。世俗的な幸せを捨て、ひたすら道を求めてきた中原の生き方は、このとき完膚なきまでに踏みにじられたのではなかったか。彼女はどんな気持ちで、私に手をついたのだろう。その気持ちを、私はいまだに聞きえずにいる。

 しかし大川に心酔していた中原は、私との結婚について、一分の疑念も持っていないようだった。
 大川は私の説得にかかった。思いどおり事が運ばないときは、相手を押さえつけるような、威圧的な口調になるのが彼の流儀だった。
「関谷さんは二度目の結婚になります。あまり自分勝手は許されません。それに中原さんは、過去に何度も転生しながら、一度も結婚したことがない。今回始めて神示により、関谷さんと結婚することになりました」
「……」
「私たちは何度生まれ変わっても、今ほど重大な時代に生まれることはできません。神のご意志に従ってください。私たちはみんな、自分の使命を果たさなければなりません」

 神の意志、使命。それを言われると、私には抗弁のしようがなかった。
「この幸福の科学は、今、そのための基礎造りの段階です。私も神のご意志に従って、よく知らない人と結婚します。この際、関谷さんも己を捨てて、会の土台造りに身をあずけていただけませんか。……それとも、中原さんではダメですか。中原さんは昨日一秒でO・Kを出したんですョ」
 私はそういう目で中原を見たことはなかったが、一般的な見方をすれば、彼女はたぶんとても品のある美人である。妹のような存在としか思ったことはないけれど、どうして中原でダメなことがあるだろう。

 "だが" と私は思った。 "精神世界の探究に身を捧げている尼さんのような彼女が、本気で私などを受け入れるはずがない"
 そう思って中原を見ると、彼女はこちらを向いて正座し、両手を膝に置いたまま私の返事を待っている。その表情には何の不安もなく、私から 「OK」 の返事が当然くるものと確信しているらしい。
 このとき、私の脳裏に走ったのは、セックスなき不自然なカップルだった。私を含めて男とセックスなどできる中原とは、到底思えなかった。としたら、聖職者同士の夫婦生活である。この私にそんな生活が可能だろうか。まだ残している問題もあるし……。さまざまな思いがわいてきて、頭が混乱してしまった。

 "ええい、ままよ。人生は所詮ドラマじゃないか" と、私は心の中でつぶやいた。"天上界の信次先生のご指示だというなら、それもよし。私もそろそろ、そんな禁欲生活に入っていい頃かもしれない。そのために、今までの恵まれた生活があったんだろう"
 もう一度中原に目をやった。即座の返事を求めるように真っ直ぐに私を見ている。
「よろしく、お願いします」
 ひとりでに口から出ていた。中原と私は、両手をついて頭を下げあった。

 それを受けて大川がしゃべった言葉を、私は今もハッキリ思い出すことができる。
「よかった。何しろ、神理を説くトップの私だけの結婚となると、会員からいろんなことを言われそうで、困っていたんですよ。しかし、中原さんと関谷さんが結婚するとなれば、意外性ということで話題になり、私のほうの話は半減されて助かります」
 いまなら、中原と私の結婚を煙幕にするつもりなのかと言うこともできる。だが、そのときは "おかしなことを言うな" と感じただけだった。それも、心の片隅で。

 統一教会の合同結婚式の後、親族やキリスト教関係者に説得されて結婚を破棄した山崎浩子が、記者会見で 「マインド・コントロール」 という言葉を使った。
 宗教団体という特殊な世界にいると、正常な判断力が麻痺する。神との仲介者である教祖が、信者の心をいとも簡単に支配してしまう。そんな状態を 「マインド・コントロール」と、彼女は呼んだのだろう。
 しかし支配される心は、支配されることを望んでいるのである。自分のすべてを理解し、行くべき道を指し示してくれる存在を心の底で求めている。中原や私にも、その思いがなかったとは言えない。

「お互いの仲人をやりませんか。それで、どちらも貸し借りなしのオアイコということにしましょう」
 私の都合などまるで無視して、嬉しそうに大川が言った。
 しかし、私にはまだ妻がいる。離婚は話し合いがついていたが、高校生の娘が大学受験を終えるまでは、籍だけでもこのままにしておこうという話になっていた。いまではそれが、身勝手な父親である私が娘にしてやれるたった一つのことだった。
 このことを話すと、大川は驚いた顔をした。
「エッ、まだ籍が抜けてなかったんですか。それは知らなかった」
いつも、私たちのすべてを見通しているようなことを言っている大川が、こんな重大なことを見落としていたとは。                                         
「あと二ヵ月で娘の入試が終わります。それまで、このままではいけませんか」
「いや。私のことも、もう発表してしまわなければならないし、それは困るよ。何とかなるでしょう、関谷さん」
 いまや、大川と私は師弟の関係にある。まして、その師は天上の世界から直接指導されているのだ。人間の浅知恵では計り知れない大計画が、こうして一歩ずつ実現されようとしているのかもしれない、と私は考えた。私もまた、「マインド・コントロール」によって正常な判断力を失っていたのである。
 その場は、「すぐにでも妻と話し合ってみます」 ということでお開きになった。

 家に帰っても心が落ちつかなかった。独り暮らしのマンションで、何時間も自問自答を繰り返した。
 まず、大川主宰がご自分の結婚の話題を半減させたいという、その心理はいったい何だろうと考えた。
 "そういえば、若い女性とのデートすら、先生は一度も経験したことがないと聞いたことがある。そんなことからくる、先生特有のテレなのだろうか"

 "それにしても、私と妻との現状を、まったく霊視できなかったのだろうか。この結婚は、中原と私の一生を左右する重大事である。すべてを見通したうえでのお話しではなかったのか″
 "もしかしたら大川先生は、じつは異次元など何も見えない、頭のいいだけの人間なのだろうか。自分の都合だけを優先させ、他を思いやる愛のない人なのだろうか"
 そうした考えに行き着くたびに、私は何度も首を振った。
 "いや、いや。そんなことは絶対にない"
 この夜、私の頭は混乱し、ハッキリした結論はついに見出せなかった。



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