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4-5 愛なき断罪と追放の実態

2009/12/14 06:30  Category:「虚業教団」 関谷晧元

                    第4章  愛なき教団だから 「愛」 を説くのか


 愛なき断罪と追放の実態

 事態は進捗しないまま、あの忘年会の夜がやってきた。
 五〇人ほどの職員を研修場の二階に集め、ビールやつまみをならべて、一年の労をねぎらうささやかな宴会が開かれた。その席で総務局長の私から、阿南と真知子の神託結婚を発表したが、発表するまでもなくもう全員が知っていた。
 底抜けの明るさで人気のあった真知子が結婚することに、ガッカリしている男性も少なくなかった。彼女は嬉しそうに見えた。阿南のほうは、彼女から離れた席で固い表情を崩さずに座っていた。

 神託結婚の報告でワッと盛りあがって始まった忘年会だったが、じきに重苦しい雰囲気に変わっていった。真知子が声をあげて泣きだしたのである。
 トラブルが生じたときの常で、私が何か言いだすしかなかった。
「おい、みんな。今こそ、神理を打ち建てる大事なときだ。我々の人生には、これからもいろんなことがあるだろう。みんな〈光の天使〉なんだ。大きな心で、花も嵐も踏み越えて生きていこうじゃないか」
 最後のほうは、自分自身に言い聞かせているかのような気持ちになった。

 正月を迎えるために、阿南は関西の実家へ帰っていった。真知子のことも両親に伝えなければならない。しかし神託結婚の話をすると、狂人あつかいされたという。そう、それが常識ある人間なのだ。〈幸福の科学〉という狭い世界の中で、その常識を私たちが忘れかけていたということなのだ。

〈幸福の科学〉は"偉大なる常識人"を理念の一つとして掲げている。
 しかし"偉大なる常識人"をいくら説いても、それで常識人になれるわけではない。健全な常識は、職場や家庭で懸命に自分のつとめを果たし、人と人が互いを思いやり、支え合うような、ありふれた生活の中に存在するのである。
 ついでに言い添えておくと、"偉大なる常識人"の概念は、大川に提出したレポートの中で私がはじめて提唱したものである。それが、いつの間にか会のモットーとして定着してしまった。

 明けて一九八九年一月。年末年始の一〇日間の休暇を、家族という常識世界に触れてすごした阿南は、心を固めて東京へ戻ってきたようだ。彼は大川に、この話はなかったことにしてほしいと訴えた。
 大川のワンマン体制下では、その意向に逆らえば、会から追放されても文句は言えなかった。よほど勇気が要ったに違いない。なにしろ仏陀の指示を拒むのである。
 阿南浩行は自分の心に正直にしたがった。たとえ、全知全能の神の命令でも、自分がおかしいと感じたら、やはりおかしいのではないか。彼は自らの行動で、そのことを私たちに問いかけたのである。けれど、私たちはまだ自分の"浅はかな考え"よりも、大川の霊言を信じていた。
「神は自分の心の中にある」 と高橋信次は繰り返し説いた。そういう心の中の神を、真っ直ぐに見つめることのできた人間から、順番に会を去っていった。

「明日から出社におよばずだ! もう出てくる必要はない!」
 大川の憤慨は、私たちもはじめて見るほど激しいものだった。
「佐藤家を訪問したというのは、すでに承諾したと同じではないか。相手に正式に結婚の申し込みをしたということだ。今さら断れない!」
 六大神通力を持つはずの主宰先生が、怒りのためにその能力に曇りが生じたのか、すでに阿南は真知子の実家へ挨拶にいったものと勝手に思い込んでいた。
「神託結婚を承諾できないのは、高級霊からの霊言が信じられないということだ。これだけの本(当時は六〇冊)を認めないと言っているんだ。信仰心がなってない!」
「自惚れている。大したこともできないくせに!」

 局長会議が頻繁に開かれた。そのたびに、私たちは、主宰先生の"不調和な言魂の響き"を耳にしなければならなかった。
 大川から各局長あてに 「綱紀粛正」なる通達が出されたのは、一月七日のことである。


 事務局長/総務局長/指導局長/推進局長    1/7/89 大川

     〈綱紀粛正〉
1、阿南氏   当会幹部としての発言、行動が社会的常識に欠け、三宝帰依の精神がない。また自己変革の意思がない。〔意思=原文ママ〕
 * 来週より二週間、自宅での反省を命ずる。
 * 指導局課長解任。
 * 青年部講師、当分の間資格停止。
 * 二週間の反省期間後、多少本来の姿になっておれば、事務局付で勤務、又は大阪への配転を考える。反省の色がないようなら、退職勧告をする。
(中略)
〈全体的展望〉
1、当会の性格からいって師と弟子の信頼関係は絶対必要。高級霊への信仰も必要。神を裁く性格の人はいられない。〈正しき心の探究〉の基準の運用による 〈破門〉も検討の必要がある。
2、今回は青年部講師再考のよい機会。人生経験未熟で大人になりきっておらず、社会常識を疑われる講師の登用は避け、〈研究員〉あるいは〈研究生〉とする方向へ切り替え必要。


 通達は、大川がみずからワープロ打ちしたものだった。
 こうした事件の、いったいどこに愛があるだろうか。
 神様の気まぐれとも思える神示をぶつけられ、悩まない人間がいるだろうか。本人には、どうしても理解できない問題だから悩む。そういう人間の心を、主宰は一片の通達によって残酷に切り捨てたのである。
 師と弟子の信頼関係を破壊しているのは、はたしてどちらだったか。人生経験未熟で大人になりきっていないのは、大川自身ではなかったろうか。
この事件があって、中原幸枝は出勤を拒否するようになっていった。



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